お前しか届かない (Page 2)

「うぁ、すごい、きもちいっ」

「えーっ！　ここは『おもちゃよりお前がいい』って言ってくれないのー？」

自分から仕掛けておいて、難儀な奴だ。

「お前が見てるせいだろ」

「うん、見てる…かわいいね」

カオルは玩具を抜くと、俺のふくらはぎを肩にかけ、太ももを抱きしめた。

ただそれだけで体の奥に、ぶわりと快楽が湧く。

「お願い。いいでしょ？」

お互いに、カメラの前に立つ仕事だ。あまり無理はできない。

そうわかってはいても、求められるのは嬉しい。

己を律するのにも、もう疲れた。

なによりカオルのすがるような視線に頭がくらくらしているのだ。

だから俺は、いとも簡単に頷いてしまった。

「はあぁっ」

玩具でさんざん溶かされたそこは、すんなりと受け入れる。

「すごい、とろとろ…」

「ふああ！　んああぁ――っ」

今まで感じたことのない強制的な快楽に、はしたない声がもれてしまった。

「俺、まだ出してないから、一回目の途中ね」

やだ、の二文字も言えないほど自由が利かなくて、力の入らない手を必死に伸ばす。

いつになく強引で、それでも与えられる刺激は丁寧だ。

カオルは俺の指を絡めとると、そのまま頬へ持っていった。

「初めてだよね、こんなの。どう？　気持ちー？」

言うまでもない。

ただ、カオルの表情が気になった。

「…なにがそんなに不安なんだ」

太ももを唇でくすぐられる。

「…ドラマ、観てくれたでしょ」

アイドルであるカオルが初主演を射止めたドラマは、気障な台詞と甘いキスシーンが特徴の恋愛ものだ。

業界からの評価もそこそこ高く、これから俳優業のオファーが増えていくだろう。

「やきもち、焼かないの？」

甘いキスシーン。

俺には見せない、余裕のある表情で相手の頬をすくって、ゆっくりと唇を合わせる。

――なんて。所詮、演技だ。

「…あんなの仕事だろ」

「でも嫌だった！　ずっと気持ち悪かった、俺はアオイ君だけなのに、あんなの、嫌だったんだ」

駄々をこねるみたいに、腹の上にのしかかってくる。

「アオイ君…」

耳元で、涙の気配がする。

「君はいつもこんな気持ちなの？」

こんな。

そんな気持ちは、知らない。

「――お前は優しいよな」

やんわりとくせ毛を撫でる。

「きっとお前は、憑依（ひょうい）型ってやつだよ。俺は違う」

激しいステージをこなす身体は重たい。

軽やかに役を着こなしても揺るがない。その重さに安心する。

「俺は、どうしても冷めてるから。お前じゃなきゃわからない。届かないんだ」

顔が見えないから言えたけれど、こんなのクサくて笑われるかもしれない。

「それって――」

いや、笑うような奴じゃない。

「俺は、お前しか愛さないよ」

身体を起こしたカオルは、新しい涙を浮かべていた。

「カオル。お前が好きなのは俺だろ」

「俺も、アオイ君だけ愛してる」

「どれだけ役に入っても忘れるなよ」

「うん！　もう絶対忘れない」

＊＊＊＊＊

「…ねえねえ、今度から2回目までいいことにしようよ」

「やだ」

「えー！」

お前となら、ただ隣に寝ころんでいるだけで満たされるんだ。

Fin.