我慢しないで声出して (Page 5)

「…………おはよ」
「うわっ。声やばっ」

 翌朝、目覚めた工藤先輩の声を聞いた俺は思わず目を丸くした。
 彼は途端に顔を真っ赤にさせ、ガサガサとした声で怒る。一晩中抱いた彼の喉はすっかり枯れていたのである。

「誰のせいだと思ってるんだ!」
「すみません!」
「好き勝手しやがって……」

 先輩は布団に包まったままそっぽを向く。いまだ昨夜の熱がぼんやりと残っているのか、布団から覗く耳は赤かった。俺はそんな彼を後ろから抱きしめ、ご機嫌取りにときゅんきゅん甘えた声で鳴く。

「でも先輩の声めっちゃ可愛かったですよ。最高でした。録音して毎晩のお供にしたい」

 返ってきたのは言葉ではなく枕である。顔にぶつかったそれに悶える俺に、バカかよ、と工藤先輩は唇を尖らせて目を吊り上げた。

「そんな気持ち悪いことしないで、毎晩直接聞いてればいいだろっ」
「えっ?」

 先輩は言った直後に己の失言に気が付いたらしい。ハッと目を見開いたかと思うと、一気にその顔が羞恥に染まる。
 途端に顔を隠そうとする先輩の腕を掴む。真っ赤な顔を真正面から見つめれば、先輩は震える目でそっと俺を見つめた。潤んだ涙の膜が張っている。俺はごくりと唾を飲みこんだ。

「い、いいんですか」
「……………………」
「これからも声聞いても……」
「…………枯れない程度にしてくれ」

 その言葉を聞いた瞬間、俺は衝動的に先輩の口にキスをした。ベッドに押し倒し、驚く先輩の体を抱きしめる。
 これからか!? と驚く彼にニコッと笑みを浮かべた。今日の授業はとっくに終わっている。二人共、この後は予定がない。時間はまだまだたっぷりある。

「ねえ工藤先輩。俺、掠れた先輩の声も絶対可愛いと思うんですよ」
「ばっ…………、ん、ああっ」
「我慢しないで、声出してくださいね」

 文句を言おうとしていた先輩は、俺が服の中に手を突っ込むと、思わず甘い声で喘いだ。

Fin.

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