今時の淫魔の事情 (Page 2)

「もう一杯飲んだらさ、よかったら今晩は俺の家に来ない?」

「なんだよ、抱かれんのがクセにでもなったのか?あん時は散々嫌がってたクセに。…でも、最後はヒンヒンよがってたもんな」

怒りがこめかみにピクリと走ったが、ライトは口元をなんとか笑顔に保ち、ふふっと笑ってスルーした。

「彼と同じの、2つ」

ライトは男が飲んでいたロングカクテルを2つ頼んだ。

ウェイターが持ってきたグラスを受け取ると、こっそりと手に仕込んでいた淫魔特製秘伝の媚薬をグラスの中に手早く落とした。

――これでコイツも家に来る頃には、俺に抱かれたくてしょうがなくなるだろう…この前のリベンジだ、覚悟しとけよ?

そんな思惑を胸に、笑顔でグラスを合わせた。

「カンパイ」

*****

タクシーで無駄に広いライトのマンションに乗りつけると、玄関を開け男を中に促した。男はキョロキョロと周りを興味深く眺めている。

「ずいぶんいいところ住んでんだな」

「そう?…ねえ、何か飲むか?」

なかなか変化の現れない男の様子を、ライトはいぶかしく思い振り返った。その突如、体に異変を覚えたのはライトの方だった。体の芯の方が燃えるように熱くなり、ドクドクと奥の方に血が集まっていくのがわかる。
手にしたグラスを床に落としてしまうと、その音に気づいた男はニヤニヤと笑いながら近づいてきた。

「なんだ、やっぱりやばいお薬はいってたんだ?」

「はっ、な、なんで?わかったんだよ…」

立っていられないほど、体が疼く。ライトは自らを抱きしめてその場にうずくまってしまった。

「オレすっごく鼻がいいんだよ。だから、お前がちょっとよそ見してる間に交換させてもらったんだ」

「く、くそぉ〜」

「ついでに言うとさ、お前人間じゃないだろ?さしずめ淫魔ってとこか?」

「?!な、何言って…」

「あたり?いやだから、オレもご同類ってわけ」

そういう男の目を見ていると、ギラギラと獣のように光り、口元から鋭い牙をのぞかせた。頭部からは尖った耳が伸び、手の爪も黒く伸び、体は一回り大きくなったように見えた。

「ま、まさか、おおかみおとこ?!」

「その呼び方はあんまり好きじゃないんだよね。せめて人狼って言ってほしいな」

男はライトに近寄り、ひょいと肩に抱え上げリビングに置かれたソファの上に放り投げた。その頃にはすっかり元通りの姿に戻っていた。

「だからさ、お前ごときが俺に敵うわけないんだよ」

耳元で囁いた男は、ざらついた舌でべろりとライトの首に伝う汗を舐め、頸動(けいどう)脈のあたりに甘く噛みついた。それだけでも、先程の牙を思い出せば身も凍る行為であるはずが、すっかり媚薬の回ったライトの体に火をつけるには十分だった。

「ひ、ひうんっ、はっ、こんな、はずじゃ…っ」

「いいじゃん、どっちにしてもお前らにとっては悪いことないんだろ?素直によがってろ。体力には自信あるから」

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