あなたの猫になりたい (Page 2)
「尚(なお)って、猫みたいな名前だよな…」
僕の乳首をいじりながら、課長はどこか感心した風だ。触れる体温は熱く、ビール一本で完全に酔いが回ったようだった。鳴き真似でもすれば喜ぶのでは、とバカな考えがよぎったものの、酔っているくせに的確に攻めてくる不埒(ふらち)な指先に、声を殺すので精いっぱいだ。
「ん、ふ…っ、」
「――声、ききたい。なお、なーお」
外耳を舐め、時折耳たぶをかじる。ささやかれる甘い声と吐息にぞくぞくと刺激が走って、意図せず腰が揺れる。
「腰、揺れて、えろ…。細いのに、しなやかで、肋骨のとこ、なでるとぴくぴくして…」
指先が胸から腹へ滑り落ちて、その後を舌先が追う。
「あっ、や、やだ、あっ…、んんっ、」
胸の頂きは念入りに、こね回すように舐められ、吸われ、つねられて、そのたびに跳ねる体に羞恥が走る。
「なんか、あまい…?」
甘いわけがない。酔っ払いに物申したいのに、口を開けば嬌声が零れそうで、唇を噛んだ。
ワイシャツはすっかりはだけられ、腰のあたりでぐちゃぐちゃになってわずらわしい。ジーっというズボンの前を開く音がして、下肢がひやりと外気に触れた。勢いおろされた下着のせいで、すっかり立ち上がった僕のものが腹を打つ。
「っ、んっ」
するりと指が回され、
「んんっ…、ん、あ、ぁ…」
ゆっくりと扱かれる。先のほうを親指でこねられて、いやらしい水音が鳴った。快感にゆがむ顔を見られたくなくて手で顔を覆うと、低く笑う声が聞こえ、課長が少し離れる気配がして。
「――どっちかっていうと、俺は犬かな」
楽し気な言葉と同時に、ペニスを熱い何かに包まれて。
「っ、ひぁっ、ああっ! だめっ、んあっ、やぁ」
上下に擦りあげられる口内の中で、肉厚の舌がねっとりと僕のそれをなでる。
「か、かちょ、ん、だめ、でる、でちゃう…も、やめ」
下肢に覆いかぶさる頭を必死でどかそうと押しやるものの、快感に侵された体では力が入らない。自然と跳ねる腰の動きが、課長の唇の動きを助長する。かくかくと卑猥に揺れる腰の動きは止まらず、何かが這いあがってくる予感に次いで、悲鳴が漏れた。
「いっ、く、だめっ、出ちゃう、でる、あ、や、ん、ん、あっ、あぁああっ!」
極めた瞬間、頭が真っ白になった。気持ちがいい、その一点が思考を鈍らせ、快感に浸らせる。荒い息をこぼし、ぴくぴくと下腹部を反応させる僕に、課長はにやりと笑う。
「なきごえ、かわいいな…さすが、俺の…」
そう陶然とつぶやいて、そっと顔が近づいて――ぱたりと僕の上に倒れこむ。ぎょっとしたのもつかの間、穏やかな寝息が聞こえてきて。
*****
「……寝落ちって」
その場に脱力し、ため息をつく。息が整って落ち着いたせいか、重なった筋肉質の体を押すと、割とすんなり床に転がった。しっかりとシャツを着こんだ課長の体を恨めしく思いつつ、寝苦しくないようボタンを外す。ほんのり汗ばんだ体に触れて、こくりと喉が鳴った。
「失敗したな…」
こうなることを企んだわけではないけれど、最後まで抱かれたほうが踏ん切りがついただろう。じわりと視界がゆがんで、手で顔を覆う。――課長が、ずっと好きだった。二人で過ごす反省会を心待ちにしていた。いつか、思いを伝えることを想像していた。
「明日から、どうしよう」
――もう、元の関係には戻れない。
最近のコメント