さよならはいわない (Page 3)
目的だった砦に到着して、ジークは着任の挨拶もそこそこに、孤児院について聞いて回った。
維持費が着服されているとか、そういった後ろ暗い事情はなく、この辺りの建物は大体同じようなものだそうだが、「件の孤児院の大人は院長だけだから、雨漏りやら建付けの悪さは他より酷いでしょう」と詳しい者はたじたじになって付け加えた。
「そもそも、あの人が来てからなんですよ。孤児院なんてものができたのは」
国境で拾ってきた子どもを連れて、資金は自分で賄うからここで育てていいだろうか、と許可を求めてきたらしい。
「あの…、リーヴェスト様。彼は、罪人ですか」
「…なぜそう思う」
「…ものすごい顔をなさっています。よほど憎いのかと」
憎い、わけではないはずだ。自分を置いて、こんなところにいたのかと――複雑な心境であるだけで。随分強面に成長したから、表情が強張ると「怒っているのか」と怖がられるのは慣れていた。
「いや…、子を育てる場所があのようなあばら屋では、可哀そうだ」
「――なるほど。砦には使える資材もありますが」
「私が対応しよう」
その衝動は、ただ会いたいがためだった。
*****
砦からの援助だとの申し出に、エトワールは意外にも首を横に振った。
「…返せるものがありませんから」
タダほど怖いものはない。
朗らかな見た目だが、金銭にかかわると人が変わったようにそう言っていたな、と思い出す。
だが、援助や寄付には――ここまで頑なだっただろうか。
突然現れた騎士に遠慮しているのかもしれない。
「…今年の冬は、例年にない寒波が訪れると聞いたが、現状のままにしておくつもりか」
ジークがもっともらしく言えば、エトワールは少し考えて、おずおずと頷いた。
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