さよならはいわない (Page 4)
初めの一か月、ジークの生活は判で押したように、朝は砦で仕事、昼から孤児院の修理という流れで進んでいた。
次第に懐き始めた子どもたちはかわいらしく、喜ばせようとあれこれ土産を渡しては、ちらとエトワールの反応を伺う日々。
何かをするたびに、彼の途方に暮れたような、何か考えに耽(ふけ)る様子が気がかりではあったが――、微笑みを浮かべて礼を言われるとすぐに忘れてしまった。
今から思えば、それが間違いだったのだ。
二か月目に差し掛かろうとしたある日、その日の任務が担当兵の欠勤に伴ってなくなり、ジークは「予定が空いた」と朝から上機嫌で孤児院を訪れた。エトワールの姿が見当たらなかったので子どもに尋ねると、客と二人、倉庫に入っていったという。
――倉庫?
ガラクタばかりの場所にどんな用事があるのか。
不審に思い、気配を殺して近づくと、木戸の向こうから、すすり泣きのような声が聞こえてきた。次いで、肌を打つ音と、聞きしれぬ男の声。
何が起こっているか、すぐにわかった。
*****
「あれ、騎士様。いらしていたんですか」
よくよく見なければ普段通りの格好で現れたエトワールは「今日は来られないと聞いていたので驚きました」と続けた。目じりが赤く、首筋に引っかき傷。慌てて水を浴びたようなシャツの湿り気。
ジークは沸き上がったどう猛な感情を抑えつけようとしたが、エトワールの一言に阻まれた。
「――こちら。少ないですが修理代です」
懐から取り出された金色のコインを見た瞬間、視界が真っ赤に染まった。
「っ…、来いっ」
エトワールの腕をつかみ、院の奥へと引っ張っていく。
廊下を突き進み、抵抗する体を力任せに彼の部屋に投げ込んだ。
「っ…、何をっ、んぅ…ん」
疑問を差し挟む余地を与えないよう唇を奪う。両手首を頭上で束ね、服を無理やりはいだ。窄まりに指をやると、柔らかく飲みこんでいく。エトワールがハッとして、ジークは薄く笑った。
「金のために抱かれたのか」
「…知っていたんですね。――でも、金は金です」
「…っ、私が、黙って受け取ると思うのか?」
「――貴族には、借りを作らないと決めているのです」
普段にない冷徹な表情を浮かべて、エトワールはきっぱりと言った。憎しみさえ感じる眼差しに、ジークは息をのみ、すぐに我に返った。
「だったら、私に抱かれろ。どこの誰かに抱かれた金など、受け取る気はない」
それから二人の関係は、肉欲を伴うものに変わった。
孤児院を昼に訪れ、修理を行い、夜はエトワールの部屋で彼を抱いた。
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