さよならはいわない (Page 5)
先ほどまで抱いていた体は、隣でぐったりと脱力し、月明かりの下で白く艶めいて見えた。
別れのときは近づいている。
ジークはふと窓の外を見やって、柔らかな月光に目をすがめた。
「夏の日の、きれいな空の色…」
そっと懐かしい言葉が紡がれた。
振り向くと、エトワールと一瞬視線が絡む。
名前も髪の色も変わってしまったが、瞳の色は同じ。「先生の一番好きな色だよ」とこっそり教えてくれたのを思い出した。
「…慕ってくれた子のためと、追いすがるあの子を突き放して、どうにもできなくて、嫌いになったからと手酷く拒絶した。そうしなければ、院がどうなるかわからなかった。…貴族は、怖い。あなたも、貴族のくせに…」
その眼は、ぼうっと空中を見つめている。
ジークはそっと、赤く上気する頬に触れた。エトワールは小さく微笑む。
「――夏の日の、空の色…。もっとよく見ても?」
「…ああ」
「あの子が大人になったら、きっと立派な騎士になったと、そう思うのです」
「…あなたを恨む子など、どこにもいない」
長じるにつれ、どうにもできない事情があったのだと理解はしていた。「おまえなど嫌い」といった言葉を悲しくは思ったけれど、泣きそうにゆがんだ顔を見て、嘘だと気づいた。
だから、別れてなお何度も探して、思いを募らせた。
会えた今、いっそう恋しく想うこの気持ちを、どうすれば伝えられるだろう。
「――騎士様。もう少し、抱いてくれませんか」
恋しい人の甘い懇願に、ジークは再び覆いかぶさった。
*****
何度もジークを迎え入れたその場所は、より硬く質量を増した熱も、難なく飲みこんだ。腰をつかみ、とんとんと優しく奥を突く。薄い腹を打つ、少し立ち上がったエトワールのそれをさすってやれば、すぐに気をやってとろりと蜜をこぼした。
「ん、ん、んっ、ぁ、…あぁ、ん…」
半開きの唇の端から、快感に酔う喘ぎが漏れる。
目をすがめ、うっとりと与えられる熱に身を任せる煽情的な姿態。むき出しの硬い肩にすがろうと腕を伸ばされ、上体を倒してやれば、きゅんと中を締め付けられた。細い指が太い首を撫でる。後頭部を引き寄せるように抱かれて、望まれるままにキスをした。
「ん、…う、ぁ、ん、ふぁ…」
口づけたまま、仰向けの体をうつ伏せに返す。獣のように後ろから覆いかぶさって、律動したまま舌を絡め、胸の頂きをくりくりと扱いた。
「ぁ、やっ、んんっ、は、ぁ…」
ぱちゅぱちゅと濡れた音が大きくなる。唇が離れると、甘い喘ぎがひっきりなしに喉からほとばしった。
「あ、あ、あ、あっ、あぁ、っ、ん、あんっ」
「はぁ、…はぁ…もう、出そうだ」
「んっ、だし、出して…、おく…」
抜けるギリギリまで引き、再び奥を貫く。ピストンを繰り返す。せりあがって、放つ瞬間、後ろからぎゅっと抱きしめた。
「っ…く…」
中でびくびくと震える硬い肉を、中がきゅうと締め付けた。吐き出しきるまで、ジークは腰を揺らめかせる。絶えず快感に反応して震える下腹部を掌で大きく撫で、細い体を再び寝台に仰向かせた。
「…ま、まって、まだ、イって」
整い切らない息を飲みこむように、むさぼるようなキスをした。
*****
眠るエトワールの顔をしばらく眺めてから、ジークはそっと寝台から降りた。
床に散らばった服を着て、少し考え、端切れのメモ帳に、懐から取り出したペンで書きつける。
「また来る」と書いた。
「転属願いを、書かねばな」
ジークはそう言って、静かに部屋を出た。
Fin.
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