異世界転生したらつがいができました
ある日異世界転生してしまったマヒロ。よくあるマンガや小説のように魔法や特殊な能力が芽生えたり使えたりすることもなく、獣人の青年・ウーヴェに助けられて生き延びた。そしてたどりついたのは平和な村と、平和な暮らし。チート展開も英雄譚も冒険もない。あるのは大切なつがいに守られ愛される幸せな日々。
「マヒロ、待たせた」
「ん、おかえりウーヴェ」
手元の本から目線を上げると、見慣れた金色の瞳がすぐ近くにあった。
目が合うと柔らかい口唇が押し付けられる。
もう何度も繰り返したそれにあからさまな照れはないけど、それでもやっぱり頬が熱くなるのは、ボクが日本人だったから、だろうか。
「スベニャが木の実のケーキをくれたんだ」
「おばあちゃんが? じゃあ帰ってお茶を淹れなくちゃ」
「ああ」
目元や頬、鼻の頭。
もちろん口唇にもウーヴェのキスを貰いながら、たくましい筋肉質な腕に抱き上げられた。
スベニャおばあちゃんのケーキはナッツみたいな木の実が入っていて美味いから、ウーヴェは早く食べたくてはしゃぎ気味だ。
ボクのことが愛おしいって隠さない金の瞳も、浅黒くて精悍な顔付も、濃褐色の少し硬い髪の間から覗く金毛(きんもう)に黒斑点模様の耳も、全部が喜びを表しているんだから愛おしくてたまらない。
──…そう、ウーヴェにはヒョウとかジャガーみたいな、少し肉厚で丸みのある肉食の猫科みたいな耳と、金と黒斑点の柄が綺麗な太くて長い尾がある。
何の冗談かと思うだろうが、獣人とかそういった種族なのだと受け入れた。
そもそもの話、ボクは日本人だったけど今生きているこの場所は日本ではないし、何なら地球でもない。
──…異世界転生、って知っているか?
大雑把に言ってしまえば、「ある日突然」とか、「病死」とか、「事故死」とか、「殺人事件」とか──まあさまざまな理由でもって、いわゆるファンタジーな世界に主人公が転生する物語のことをさす。
そうしたマンガや小説では、主人公は天からのギフトとも言える魔法や能力を持っていたりする。
王道でもダークでもチートでも、世界を揺り動かして胸が熱くなるような現代の冒険譚とも言えるジャンルだ。
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