3月は別れと出会いの季節です (Page 2)
タケシか…名前まで似てるな。
15年前ちょうど今頃だったろうか、高校の卒業式。
きっとひどく傷付けたに違いないかわいい後輩。
蓋をした記憶のせいか、顔は少しうろ覚えだが色っぽいはずの口元のほくろが霞むほど、にぎやかでおもしろいやつだった。
同じ部活で同じパート、吹奏楽部でファゴットを演奏していたが、小柄なのでいつも「大木につかまるコアラみたいだ」とからかわれていた。
確か名前は鍛治屋敷剛(カジヤシキツヨシ)。2学年後輩で、たった1年しか同じ校舎で過ごさなかったが、人懐こい性格で3年生にも可愛がられていた。
ツヨシは、俺の卒業式の日柄になく大人しく、部活の追い出しパーティーでも遠巻きにしていた。
そして帰り際、告白されたのだった。
その頃から俺も自分の性癖はうっすら自認していたし、ツヨシにも特別な感情がないわけではなかった。
でも、若すぎた。
どう対処していいかわからなかったし、ツヨシもその他多勢と同じく、男子校特有の雰囲気に飲まれただけで、どうせすぐ俺のことなんか忘れてしまうんだろと思った。
だから、せめて心に残る別れ方をしようとあえてひどい言葉を吐いた。
「他当たってくれる?つか、マジとかキモッ!可愛いのが好きなおっさんとかさ、いるだろ?俺は無理だわ」
その後は、振り返らなかった。
自分の吐いた言葉は、そのまま自分に跳ね返ってくるだけだったから。
そうして蓋をし、忘れたふりをしていたのだ。
急に苦い思い出まで思い出され、慌てて頭を振る。
ストレス発散のつもりが、自家中毒おこしてしまったら意味がない。
気持ちを切り替え、目の前のモニターに映し出される男の子たちに目を移した。
先程気になったタケシのプロフィールを見ると、身長185cmに薄く筋肉の乗った精悍な体躯と、流し目な鋭い目尻、口元のホクロにギャップがあり、薄茶の髪色と合わせて韓流アイドルのような印象だった。
まだ新人のマークがついているが、人気者になるのは間違いないだろう。
運良く今日のスケジュールは空いていたので、俺は迷わずタケシを選んだ。
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