恋より深く、愛より重い (Page 6)
ウメダがその場の勢いや冗談でそんな話を持ち出しているわけではないのはニシにもよくわかっていた。終活、というにはまだ早いけれど、自分の将来を見据えたときに誰と一緒に居たいかと考えた末の結論なのだろうか。
それはニシだって他人事ではない。大切な両親もこのまま歳を重ねていけばニシよりも早くこの世を去ることになる。血の繋がった家族はニシにとってかけがえのない存在ではあるけれど、自分の最期の瞬間まで側にいられるわけではないのはわかっていた。だから人は人生を共にするパートナーを探して自分の家族を作ろうとするのだろう。ニシだっていいご縁があれば…と思ってはいるものの、ここ数年全くといってそんな出会いはない。多分この先もないのだろうと半ば諦めに近いものもあった。
だって、見つかるわけがない。ありのままの自分を「そのまんまでいいよ」と認めてくれる相手なんて。
黙っていてもお互いの考えていることが手に取るようにわかる相手なんて。
ウメダよりも自分を理解してくれる相手なんて。
「…っちゅうかこれ、一緒に生活してなあかんやん」
「うん。やから申請する区に引越しやな。ちゃんとそれぞれの部屋とかはしっかりわけて。俺寝る時間遅いし」
「そんなん会社にバレたら大ごとなるやん」
「そのときはそのときやろ。なんとでも言えるやん。終活のためにとか」
「会社におられやんくなるかもやで」
「やからそれも、そのときに考えたらええやん。なんやかんやで理解してもらえるって俺は思うで。んで、どう転んでも守るよ、ニシのことは」
それは恋なのか、愛なのか。きっとお互いにわかりかねていて。ただ、最期の瞬間まで隣に居たい存在だということは間違いなかった。
手にしていた書類をトントンとまとめてニシは笑う。
「今度の休み、一緒に家探しに行こか」
その言葉を聞いて、ウメダも破顔するのだった。
Fin.
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