一生分の片思い (Page 3)
荒くなった息を整えながら、互いの視線が絡む。
耐え切れなくなって、赤く火照った唇を重ね合わせたら、強く噛みつかれる。
「…キスはせんって、言ったやんか」
「したくなったんです。これくらい、許してくださいよ」
だって、どうせ。俺のモノには、なってくれないんでしょ。
そう耳元で囁くと、尚輝さんの体が強張るのがわかった。
わかってる、都合のいい存在だって。
そんなこと、わきまえた上でこの関係を続けているはずだった。
だけど、あの人に向ける優しい視線とか、あの人に触れる指先とか。
自分との圧倒的な差を間近で見せつけられて、叶わないって、そんなこともうわかりきってるのに。
尚輝さんと肌を重ねるたびに、この人を自分だけのモノにしたいっていう気持ちだけが高まっていく。
互いの体が離れて、尚輝さんが俺に背を向けた。
この現実を向き合いたくないんだって、その背中が物語っているような気がする。
「…俺なんて、どうせあの人の代わりなんでしょ」
「だったら…何やねん」
か細い声で、そう返ってくる。
互いに、気づいているのだ。お互いが、お互いに依存していることも。
何の生産性もないこの関係に、いつかは終わりが来ることも。
それでも離れられないのは、俺がこの人に心底惚れてしまっているから。
誰かのものでもいい、その心も、体も、他の誰かに奪われたっていい。
尚輝さんが傷ついて、どうしようもなくなったときに、手を差し伸べられるなら、それでいい。
「…惚れた俺の負け、ですね」
「…そういうこと」
尚輝さんの指先が、俺の頬を撫でる。
どちらからともなく口づけて、今度は優しく唇を食まれる。
「自分勝手で、ごめんな」
きっと、これが彼の本音。
プライドの高いこの人のことだ。もうきっと、二度とこんな言葉を聞くことはないだろう。
「謝るくらいなら、もう一回しましょ?」
「…仕方ないやつ」
そう言って、二人もう一度ベッドに体を沈める。
このまま朝が来て、目が覚めたら尚輝さんはきっと隣にいない。
いつものように、テーブルの上に残された鍵をポストに入れて、また今日が終わる。
そして、何事もなかったかのようにまた、一日が始まっていく。
「…好きですよ、尚輝さん」
思わず、口の端からそんな言葉が漏れた。
尚輝さんはいつか見たあの表情で、こちらをじっと見つめている。
俺にはその表情の意味なんて、わかるはずもなかった。
Fin.
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