結婚前夜に犯した最初で最後の過ち
翌日に結婚式を控えた墨弘也は、大学時代のサークル仲間が開いた食事会で一番仲がよかった後輩の桜咲(おうさき)稔と再会する。そこで桜咲に、”大学時代からずっと好きでした”と告白され、”先輩の結婚生活を邪魔するつもりはありません”と言われる。”1つだけ、僕の願いを聞いてください”疑問ばかりが飛び交う墨へ、桜咲が願ったこととは…?
潤滑剤や体液に濡れた熱い蜜肉で締め付けられる感触。
部屋の芳香剤と分泌物が混ざった、雨とは違う湿った香り。
乱れた呼気に僅かに含まれる甲高く掠れた声。
今日が結婚前夜とか、セックスしている相手が男とか。
真っ暗な視界の中、それらがどうでもよくなるくらいオレは欲情していた。
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結婚式の前夜、大学時代のサークル仲間が開催した、結婚祝いの食事会で後輩の桜咲と再会した。
桜咲は何故かオレに懐いてくれて、よく一緒に活動していた。
懐かれるのは気分がよかったし、何より一緒に居て気持ちが楽だったから、誰よりも親交の深い相手になっていた。
食事会がお開きになり、桜咲に”もう少し話しませんか?”と誘われ、行き付けだというバーに連れられた。
結婚なんて意外でした、お相手はどんな方ですか。
取り留めもない会話を交わし、暫しの沈黙の後だった。
「羨ましいです、結婚を決めた女性が」
ほろ酔いのせいか、言葉の意味が理解できなかった。
そんなオレの様子を察したのか、桜咲は間を空けずに言葉を追加した。
「ずっと貴方が好きでした、墨先輩」
無音の世界に飛ばされると、僅かなアルコールが一気に消える。
男が好きなのか?
どうしてオレなんだ?
オレにそんな趣味はないんだけど
言いたこと、聞きたいことは多々あった。
しかし、静寂な空間から抜け出たと同時に、投げ付けたのは、もっと別の言葉。
「オレ、明日結婚するんだけど」
「結婚生活を邪魔するつもりはありません」
「だったら、」
「気持ちを知ってほしかった、それだけです」
最後まで言い終える前に、冷静な口調で疑問を解消すると、桜咲は同じ声調で続けた。
「先輩の結婚生活は邪魔しません、会うのも今日で最後にします、約束します」
安心したような、何故か寂しいような…。
「でも、1つだけ僕の願いを聞いてください」
何とも例えがたい気持ちを抱いていると、桜咲は言った。
「僕とセックスしてください」
その告白と共に、反射的に桜咲の方へ顔を向けた。
向けられる眼差しは真っ直ぐで、それでいて熱っぽく、艶かしさすらうかがえた。
明日から妻となる、姫菜にない妖艶さに、ドクンと鼓動が乱れる。
「1度だけ、僕に夢を見させてください」
語尾の直後、向けられる視線がトロリと潤む。
相手が誰よりも親しかった桜咲だからか。
しかし、唯一だけ理解していること…
(嘘だろ…)
濃厚な官能を含む視線に拒否権を奪われた事実。
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