濡れ鴉と白い羽~媚薬漬で閉じ込めて~ (Page 2)
「よろしかったので?」
「こちらの財を切り崩すしかあるまい。本当の財は領民だ。領民が居なければ我らが貴族も成立せんよ」
「確かにそうでございますが、そのように聡明な考えを持たれ実行できる方はそういらっしゃいません。我が主はやはり素晴らしい領主様です」
その言葉に彼はくすりと笑い手を伸ばし私の白い髪をひと房手に取る。
「この考えが『聡明』であると理解出来る執事もまたお前くらいなものだよエトヴィン。我が領はこの髪色と瞳を揶揄しラーベン(鴉)と呼ばれてきたがその実下らぬ事をしているのは周りだ」
「鴉は聡明でございますから」
「だが、私はお前の髪色が羨ましいよ。美しい」
「私はクリストフ様の濡れ鴉のような髪も黒曜石のような瞳も美しく感じますよ」
交差する白と黒。ぱちぱちと暖炉の火が爆ぜる音だけが私達を包んだ。
「エトヴィンは私だけの執事だ」
「勿論、私にとってもクリストフ様だけが我が主でございます」
領主の呪いに、今にも潰されんとする我が主は危うい光をその瞳に宿していた。
良き政治とは、一体なんであるのか。正解などないのだろう。
税を上げねば回らぬ経済、税を落とし財を切り崩す一方では一時的に賛同を得ても他の領とのやり取りに置いては劣勢を強いられる上、回らぬ経済に領民の不満は募っていく。
圧政の末の領主交代で、彼は上手く立ち回っていた。それでも、時間も財もそれを伝えていく術も何もかもが足りなかった。
「エトヴィン」
その壮年の男は、困ったように笑い、私を抱き締めた。
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