年下部下に弱みを握られ犯されて (Page 2)
「どうしてそう思った」
慎重に言葉を選ぶ。
なんせ原がゲイだったことはごく一部の近しい人間しか知らない情報だ。
妻は知らない。ただ街中で男同士手を繋いでいた姿に、小さく眉を寄せ目を逸らした姿に、きっとよく思ってないのだろうと言えないでいた。
会社関係で知っている者はいない。はずだ。
「よく結婚出来たなんて失礼なこと言ったのは謝ります。けど、どうしてって言われても、知ってるからです」
「…」
「俺の顔見覚えありません?」
「ない…と思う」
「うーんまぁそれもそうか、似てないし」
うんうんと頷いた山谷はスマホを操作すると画面を見せた。
「この人憶えてます?」
「…」
「その顔、憶えてるんですね。よかった~」
画面には山谷ともう一人が並んだツーショット写真だった。
二人ともラフな格好で、触れ合う肩に親密さを窺わせた。
「…知り合いか?」
「兄貴です」
「名字が、違うだろ」
「中学の頃親が離婚して、兄貴は父についていったんで名字が違うんですよ。両親の仲は最悪で離婚してからは一度も会ってないんですけど、俺ら兄弟はずっと仲いいんです」
「そうか」
「ええーそれだけですか?もっと兄貴からどんな話を聞いてるんだとか、気にならないんですか?」
「聞いてどうする」
「気になるんで」
「答える必要はないだろ」
「まあそれもそうか。俺は兄貴のいう優しい原さんってのが、どんな人か知りたかったんです。兄貴、あなたのことまだ好きなんですよ」
「…」
そうかと肯定するのもおかしい。
原はグラスに残ったビールを見る。思い出すのはこうやって飲み交わした元カレ。
目の前にいる後輩とは顔のつくりが違う。男らしい顔つきだが、言われてみれば笑った時の目元が似ていた。
「山谷もゲイなのか?」
「うーん俺はどっちでもいけます。あ、でも兄貴とそういうことしてませんよ」
大丈夫です。と笑う山谷。今のは冗談なのか?
「もしかして俺、先輩を口説いてるようにみえてます?」
「見えてないが、その話誰にも言わないでくれるか」
「秘密にしてるんですね」
「偏見を持たれたくないってのもあるが、その、嫁がどうもそっちに嫌悪感があるみたいで、もし離婚になったら子供に悪いだろ」
「家族が大切なんですね」
「当たり前だろ」
「今でもゲイです?いや女と結婚したんだから、どっちもいけた口ですか?」
「いや、女性が恋愛対象になったことがなかった。初めて女性を好きになったんだ、一目惚れだったと思う」
「運命の出会いってやつですね」
両手を合わせうっとりとした表情になった山谷は、
「大丈夫ですよ秘密にします。俺口固いんで。幸せな家族を壊すようなことはしませんから」
というと、
「待ってる人がいるんです。もう、帰りましょうか」と立った。
もしかしたら兄貴の事を聞きたかっただけなのかもしれないと原は思ったが、こちらから振った手前もう話題に出すのも気が引けた。
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