愛してくれたらいい

・作

颯(はやて)と湊(みなと)は兄弟で、周囲が認めるほどとても仲が良かった。仲の良さは愛し合うほどだったが、それは二人だけの秘密。愛し合った二人だが、颯が結婚することになった。結婚し家を出ていく最後の夜、湊は颯の部屋を訪れた。

「ぼく、はやてと結婚する」

「おれもみなととずっと一緒にいたい」

「絶対結婚しようね」

「うん結婚しよう」

子供の頃、そう言い合う兄弟を周囲は幼さ故の冗談と思っていた。

いくら本気だとしても子供によくあることだと。

まさか二人とも本気で、ずっと気持ちが変わらなかったとは誰も知ることはない。

*****

颯が結婚することになった。

結婚相手は自社の社長令嬢で、断ってしまったら会社での立場が失われ、退職するしかないから結婚するのだと湊は思いたかった。

仲睦まじい姿を目にするまでは。

挨拶に自宅を訪れた結婚相手は、さすが社長令嬢というべきか、気品があり綺麗な女性でイケメンの颯とお似合いだった。

娘も欲しかった、この家唯一の女性である母とはすぐに打ち解けていた。

付き合っている人がいると聞いていたが、実際目にするとショックだった。

リビングで並んで座る二人をまともに見れなかった。

結婚相手がいるのに自分を抱いていたのか。愛してると、どんな気持ちで言っていたんだ。

とんとん拍子で結婚式の日取りが決まった。

結婚したら颯は家を出てアパート暮らしだ。

結婚式の数日前の今日は颯がこの家で過ごす最後の日。

リビングでは両親と颯と結婚相手が盛り上がっている。

それを尻目に湊はそっと抜け出し、自室に戻りベッドに横になった。

祝福の言葉が浮かばなかった。まだおめでとうの言葉を言えていない。

両親は仲が良いから、寂しくて言い出せないとでも思っていそうだ。

確かに寂しい。毎日顔を合わせていたから当然だ。

二度と会えなくなるわけじゃないのだから、大袈裟だと笑われてしまうのだろうか。

盛り上がっているのだろう、下の階の声が聞こえてくる。

床が薄いからではないが、声が大きいと漏れ聞こえてくるのだ。

遮断したくて両耳を塞ぐ。

そういえば彼女の名前はなんと言ってたっけ。

義姉になるのに聞いていなかった。いや名前を耳にしたはずが、拒絶から記憶しなかったのだ。

湊は受け入れられない現実に眼も閉じた。

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