専属執事に願い事
三日後、20歳の誕生日と共に許嫁と結婚することが決まっている柊哉。しかし柊哉は自身の専属執事である成瀬のことが幼い頃から好きだった。結婚式を控えたある夜、成瀬からのまさかの行動!?最後に柊哉が選ぶのは恋か、それとも両親から決められた運命か…。
僕は三日後、20歳の誕生日を迎える。
それと同時に、結婚をする。
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僕の家はホテル経営を生業としていて、事業は日本に留まらず、海外にも規模を広げ、今や世界の誰もが知る大企業へと成長していた。
そんな、いわゆる金持ちの家で長男として産まれた僕には許婚がいた。
9年前、僕が11歳のときに初めてそのことを知った。
相手は僕より2歳年下で、華道の名家の長女。
まだ高校生だということを疑うほど、完成された美しい顔立ちと、それに負けない清らかな心を持ち合わせた、とても素敵な女の子だ。
自分たちの意思ではない、親同士が決めた政略結婚。
だけど、彼女はどうやら僕を好いてくれているらしい。
だけど、僕は…。
「柊哉坊ちゃん、また考え事ですか?」
頭上から聞こえたその声に現実に引き戻される。
パチリと目を開けると、目の前には銀縁のメガネと、真っ白のシャツに、真っ黒のスーツ。
「成瀬…」
ソファに寝そべる僕を見下ろすこの男は、僕の執事。
僕より6つ年上で、10年前から専属執事として僕のそばにいる。
「お悩みなのは許嫁の彼女のことですね」
「…成瀬に隠し事はできないな」
誰よりそばでいるからか、なんでもお見通しだ。
「正式にご結婚ですからね、悩まれるのも無理はないです」
「わかってるんだ、これが決められたことで、僕の力でどうにかできることじゃないことくらい…それでも僕は…」
僕の言葉に成瀬はじっとこちらを見た。
ポーカーフェイスであるその表情からは何を考えているのかわからない。
だけど反対に成瀬は僕のことをよくわかっている。
「ご結婚したくないんですよね」
ほら、こうして口に出す前に言い当ててしまう。
「彼女がいい子だということは僕もよくわかってる、けど、僕はどうしても彼女を恋愛対象として見れない…」
彼女が僕のことを好いてくれている反面、僕は同じように彼女のことを想えなかった。
男なら誰もが振り向く美形で、さらに性格もいいとくれば、普通なら喜んで結婚するはずなのに。
それなのに、僕は喜ぶどころか、結婚することを拒んでいる。
でも、そんなことまさか両親に言えるはずはない。
事業のための結婚なのだから、拒もうものなら追い出されるだろう。
そうなったとき僕が一番危惧しているのは…。
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