初恋アバンチュール (Page 3)
自分に肉欲や恋愛感情がないのではというのも長年の経験からやっとたてた推測だ。
なのに、今日、しかも数分前に出会ったばかりの男がなにを知ったようなことを言うのか。
「それは勘ですけど」
ふいに、男の手が巽の太ももに置かれた。
「でも俺の勘、結構当たるんですよ」
びっくりして男の顔を見れば、彼はそっと微笑んだ。
それは先までの無垢が夢だったみたいに、怪しく、艶やかだった。
男の手がゆっくりと、巽の太ももを撫でる。
巽の心臓がどきりと鳴り、喉がごくりと鳴る。
「お兄さん、名前は?」
「たつ、み」
「巽さん。俺は鹿野って言います。鹿に野原の野で鹿野ね」
こっちは名前を名乗ったのになんでお前は苗字なんだ、と奇妙なもやつきを覚えた自分に驚いた。
「俺が見るに、巽さんは運命の相手を見つけたらガラッと変わるタイプだと思うんですよね」
「運命って」
「あはは、漫画やドラマじゃないんだからって思いました? じゃあ、相性がいい人に言い換えてもいいですけど」
巽の耳元にそっと顔を寄せて、囁いた。
「あんたを一目見たときから運命だって思ったんです。巽さんと相性いい気がするなって。俺、あんたのこと、気持ちよくできる自信あるよ」
甘く艶かしい声音にぞくりと胸が、皮膚が震えるのを感じた。
一瞬呼吸を忘れて、口腔がからりと乾いた。
鹿野は巽の耳元から離れると、にっこりと微笑んだ。
「それに、巽さんが巽さんの思う通りの人だったとしても、俺気にしないですよ。主導権握ってするのも好きだから」
「…なにがなんでもヤる気かよ」
「俺はあんたに運命感じたんで。抱かれないと気が済まないんですよ」
なんだそりゃ、と思う。
あまりにも勝手で横暴で、しかし巽はどうしてか、やはり拒むことも逃げることもできなかった。
「だから、これ飲んだら一緒に抜け出しませんか」
その誘いに頷きこそはしなかったものの、巽はそわつきながらカシオレを飲んだ。
グラスが空になるとともに差し伸べられた手を、巽は迷いながらも取ってしまった。
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