駆け引きの情事に愛があるのか確かめるまで

・作

入社三年目の岩崎は、専務の平野に以前から誘われ続けていた。ずっと断っていたのに突然その誘いを受ける岩崎。それは駆け引きでもあった。イケメンでモテる岩崎は上司の平野相手でも自分がセックスの主導権を握ろうとしていたのだけれど…?

会社の専務である、平野専務に二人で飲みにいかないかと誘われた。飲みに、ということだから居酒屋かバーのような店かと思っていたら、値段を見るのが怖いくらいの高級店だった。高層階のこの店からは都会の夜景が広がっている。

「岩崎くんは仕事には慣れたのかな」

「ええ、俺ももう三年目ですし」

 以前から何度も食事に誘われていたのだが、うまくかわしてきた。何度も誘われ続けても断ってきたのに、今日はついに専務の誘いに乗ってしまった。

「そうか、それはよかった。三年目で君に会社を辞められたら困るからね。…ところで。いつも断っていたくせに今日はなぜ了承したのかな?」

 専務が俺をただの部下として見ていないことは、初めに誘われた時から理解していた。専務も”そういう”意味を含めて誘ってきていた。そんな関係に早々になる気にはなれなかったし、それに断り続けていたのは専務相手に駆け引きをしていたから。

「そうですね…美味しいご飯が食べたかったから、でしょうか」

 軽く微笑むと、彼も俺に笑いかける。シェフから見えるテーブルの上で手を重ねられることはなかったが、膝を軽く合わせてきた。

「ご飯だけか。悲しいなぁ…」

 そうは言いつつも、勝ち誇ったような顔で俺を見つめてくる。何度、竿を投げてもかからなかった魚が、やっと釣れたのだから自慢げなのだろう。

「専務は結婚されてないですが、彼女とかいないのですか?」

 彼女がいるのに俺を誘った? それとも他にも男がいるのか? 歳はもう50近いが顔がいい。モテないわけがない。

「彼女は…最近別れてしまってね。今独り身で寂しいんだ。そういう君は、もてるだろう? かっこいいからね。たくさん彼女がいたりして」

 自分の顔のよさは…まあわかっているが、さすがに何またもかけたことはない。一応。モテてはいたけれど。

「それは、専務のほうだったりするのでは」

「さっき、独り身と言ったのに」

「そうでした。俺も独り身なんです。…専務と同じく独り身になったばかりで」

「ああ、なるほど」

 だから私の誘いを受けたのか、と彼は小声で囁いた。

「お互い寂しいもの同士、上で飲みなおそうか?」

 専務は自分のジャケットに手を入れると、同じビルにあるホテルのカギを取り出してきた。ありきたりなパターンだが、ここまできて断る理由はなかった。

「もっと美味しい酒でもあるのですか?」

 瞳を潤ませて俺は笑顔で、その誘いにのった。

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