ハタチノヒノヨルキミト… (Page 2)
心地よい揺れに、意識がぼんやりと覚醒してきて、タイチは目を開けた。上半身をおさえているベルトの存在で、車に乗っているのだとすぐに理解した。
カラオケ店で酔いつぶれてしまって誰かが親切に送ってくれているのか…と予想して、隣の運転席を見たタイチは、ハンドルを握る人物をみとめて、目をまん丸く見開いた。
「シミズ…トモキ?」
フルネームで呼んだのは、彼のことを苗字で呼んでいたか、名前で呼んでいたか、それすらもわからないぐらい、関わりがなかったからだ。
その声を聞いて、トモキはチラッとタイチに目線を送ってすぐに前方へと視線を戻した。
「あ、起きた?」
トモキが自分相手に話しているという事実が信じられなくて、タイチは何度もパシパシと瞬きを繰り返していた。
「起きてくれてよかった。よく考えたら俺、タイチの家知らなかったからさ。とりあえず目覚ますまで適当に走らせてたんだ」
名前で呼んでくれるのか、と妙なところで安心して、タイチもあえてトモキを名前で呼ぶことに決めた。
「あー…ゴメン。トモキに迷惑かけたよな。他の奴らは…」
「酒飲んでなくて車で来てたの俺だけだったから」
そういうことか…とタイチは納得した。
他に誰も頼れず、仕方なくこの役目を担ったわけか、と。
それでも穏やかに優しく話してくれるのは、中学とは違いハタチという年齢まで成長しているからだろうか。
と、信号もないのに突然トモキは車を路肩に寄せてキキッと停車した。
「懐かしいな。ほら、俺達が通ってた中学校」
その声につられて車窓からの景色を見れば、なるほどたしかに、タイチの通っていた中学校の正門が暗がりの中に堂々とたたずんでいた。
「ほんとだ。こんなちっこかったっけ?」
たった5年前とはいえ、成長期と思春期をまたいだ5年は目に映る景色を大きくかえてしまうらしい。
年齢が上がるにつれて、遊びの幅も広がって楽しいことは増えていくけれど、中学時代は中学時代でそれなりに楽しく過ごしていたな…と、もの思いにふけって、タイチは隣にいるトモキを見やる。
中学時代を思いだしてみても、トモキとの思い出はでてこない。仲間内として一緒に昼飯を食べたこともあった。サッカーをしたこともあった。放課後にゲーセンに行ったこともあった。休日に遊びに行ったこともあった。
けれどいつも正反対の位置。横に並ぶことも、互いに会話をすることもなかった。ましてや2人で行動するなんてありえなかった。
タイチがそれを望んでいたわけではないけれど…。
ハタチノヒノヨルキミト
モダモダする
みやび先生の影あるとこも、世知辛いとこも、青いとこも、好きです
コロコロ さん 2021年4月7日