ハタチノヒノヨルキミト… (Page 3)
「あー…あのさ、トモキ。ほんと、悪かったな」
改めて謝罪をすれば、トモキは不思議そうに小首をかしげてみせた。
「嫌だったんじゃね?オレを車に乗せんの」
「え?まぁ吐かれたしたら困るけど…」
「…じゃなくて、トモキ、オレのこと嫌いだったでしょ」
遠慮がちに流れていたラジオからの音楽が、ス…と消えた。トモキが消したのだ。
「ごめん、どういう意味?」
改めてタイチのほうを見た、トモキの目はやけに真剣で、むしろ怒っているようにさえ見えた。
「ど…ういうって…。トモキ、中学の頃オレとは全然話さなかったし。嫌われてんだろうなーって思ってて…」
ハァ…と盛大なため息がトモキからこぼれて、反射的に身構えたタイチを見てくる瞳は、やはりなにやら不機嫌そうだった。
「タイチ、はかま姿、すげー似合ってるよ」
「へ、お、おう?トモキのスーツも、カッコいいじゃん」
唐突に褒められて思わず褒め返してみたものの、このやり取りはなんなのか、とタイチは疑問符を浮かべた。
ただ、マジマジとこちらを見てくるトモキの視線が、やけにねちっこいな、とか、変な空気だな、とか、そんな感覚はあったのだ。そのときに、すぐに察知してうまくかわしていれば、この後の展開はやってこなかっただろうが、タイチにはそこまで考えられる器用さはもっていなかった。
「さっきの話」
と、言いながらトモキはシートベルトをカチッと外した。そうして、体ごと助手席のほうを向いたトモキは伸ばした手で、タイチの手首を掴んだ。
「え、なに?どうした?」
いきなり手首を掴まれて、動揺するタイチに、トモキはゆっくりと、言い聞かせるような口ぶりで告げる。
「俺、タイチのこと、嫌ってないよ」
それは、中学の頃からずっと、タイチの胸の中でつっかえ棒みたいに引っかかっていたモヤモヤを、スゥ…と溶かしてくれるような、優しい回答だった。
それならよかった…と、タイチが言おうとしたとき、モソリと動いたトモキが、助手席へと上体を乗り出してきた。
「むしろ、逆だよ。タイチ」
「へっ?逆って―…!」
聞こうとした言葉は、トモキの唇に奪われていた。少しかさついた、薄い唇の感触に、まだ若干ぼんやりとしていた頭が、冷水を浴びせられたかのように急速にハッキリとしてくる。
触れるだけのキスはほんの数秒、タイチがぼう然としている間に離れていった。けれど、トモキの顔はまだ触れる距離にあって、ジッとタイチを見つめている。
「俺の言ってる意味、わかる?」
「意味って…」
ずっと嫌われていると思っていた相手から、嫌いじゃないと言われてさらにキスをされた。普通に考えれば、それはつまり、そういうことだろうとなるけれど、タイチは男で、トモキも男なのだ。タイチの中ですぐに答えは出てこなかった。
ハタチノヒノヨルキミト
モダモダする
みやび先生の影あるとこも、世知辛いとこも、青いとこも、好きです
コロコロ さん 2021年4月7日