ハタチノヒノヨルキミト… (Page 4)
痺れをきらしたのか、やけをおこしたのか、トモキは、タイチのシートベルトも外すと、センターコンソールをまたいで助手席に乗り込んできた。
「ちょっ!トモキ、狭いって!!」
膝の上に乗りかかってきたトモキは、タイチの訴えを無視して、スーツのジャケットを脱ぐと後部座席へと放った。トモキは街灯の差し込んでくる窓を見て、懐かしそうに笑った。
「俺ね、この学校で…毎日、タイチのこと、見てたよ」
タイチの脳裏に、中学時代のトモキの姿がフラッシュバックのようによみがえる。
目が合うことがあれば、ワザとらしいぐらいに視線をそらしてきたトモキが。
「ずっと、タイチのことばっかり見てたんだ。でも、もし、この気持ちがバレたらどうなるか…考えたら怖くて、だからタイチに、そっけない態度ばっかりとってて…ごめん、な」
「あ…いや、それは別にいいんだけど、え、待って。トモキはじゃぁ…」
街灯の光だけが頼りの車内は薄暗く、タイチと向かい合うトモキの表情には影がかかって、どこか悲しげに見えた。
「好きだったよ。ずっと。俺はタイチが好きだった」
ハッキリと告げられた言葉に、タイチは息を飲んだ。
シン…とした車内で、さっきまで気にならなかったアイドリング音がやけにうるさく聞こえてきた。丘の上に建つ中学校の前の道路は、日中はそれなりに車の往来はあっても、深夜になれば車が通ることなどほとんどなかった。
静かで薄暗いこの空間に、トモキと2人、中学時代に取り残されているような、そんな気分だった。
「タイチは、俺のこと、嫌いだった?」
「え…いや、嫌いじゃねーよ。トモキ、皆に好かれてたし、なんでオレは嫌われてるんだろとは思ってたけど」
「そっか…。じゃぁ、タイチ。俺に、思い出ちょーだい」
「思い出…?」
トモキは、妖艶に笑って、いつの間にかタイチのはかまのヒモをほどいていた。それにタイチが気付いたのは、はかまの中に手が入ってきたときだった。
ゴツゴツとした、大きな手が股間に触れて、ビクッとタイチの身体が跳ねる。
「トモキ!?お前、なにして…っ」
勝手知ったるといった感じで、トモキは助手席の真下のレバーを弄って、椅子の位置を、後部座席のほうへ目一杯下げた。
インパネと椅子の間が大きく開いて、トモキはそのスペースに入りこむように体をおさめた。
タイチの視界からは、自分の足の間から顔を覗かせてこちらを見上げるトモキが見えていて、その体勢にも状況にも、頭が追いついてこなかった。
ハタチノヒノヨルキミト
モダモダする
みやび先生の影あるとこも、世知辛いとこも、青いとこも、好きです
コロコロ さん 2021年4月7日