イケないふたり
大学生の少し鈍感な弟と社会人になる健気な兄のお話です。兄弟ものが好きな方はもちろん、年上受け、年下攻めがお好きな方におすすめです。兄弟のお話なので切ない描写もありますが、全体を通して甘い雰囲気でお話が進んでいきます。
ずっと、一緒だった。
一つ上の兄が、就職で離れた土地へ引っ越すことになった。
年子の俺と兄ちゃんは、何をするのも、どこに行くのも一緒だった。
性格こそ正反対だったけれど、大きくなってからはケンカすることもなく、よく二人で出かけた。
俺よりも少し背が低くて、いつも明るくて社交的な兄。
そんな兄が一人で暮らすなんて、いろんな意味で不安だけど。
「なー、雄大。俺のスマホ知らん?」
「…知らん」
勝手に俺の部屋のドアを開けて、兄ちゃんがその隙間から覗き込む。
昨日まで赤茶色だった髪の毛は、就職用に真っ黒に染められていた。
「いつの間に髪染めたん?」
「午前中。お前が昼まで寝とるから」
トントン、と階段を下りていく兄ちゃんの後ろをついていく。
昨日サークルの飲み会で飲みすぎたおかげで、体が重い上に頭も痛い。
後ろを振り返った兄ちゃんが、眉間にしわを寄せて顔をしかめる。
「水飲む?お前酒臭いから」
「…ありがと」
ソファーに座った俺に、兄ちゃんが水を差し出した。
なんだかんだフォローしてくれる、こういうところ。兄貴なんだなって改めて思う。
二人の間にしばしの沈黙が流れるけれど、気まずいこともない。
これだって、生まれてきてからずっと一緒だった証拠。
「…引っ越しの準備、出来たん?」
「あと…うーん、1個か2個くらいやったら全部終わり」
「なに、あと1個か2個って」
持っていたマグカップを、テーブルに置く。
兄がさみしげな表情を浮かべた後、俺の目をじっと見つめる。
何?と聞くと、兄ちゃんが小さく息をついた。
「お前に、言っとらんことあって」
「…俺に?」
何?と尋ねると、兄ちゃんの手が俺の手のひらの上に重なった。
突然の出来事に思わず手を引っ込めると、そのまま俺の胸のあたりに飛び込んでくる。
ふんわりと甘い香水の匂いがして、少しだけ胸が高鳴った。
はっとして体を突っぱねようと思ったけれど、ぎゅっと服の裾を握られてしまって叶わない。
「ちょ、っと!何なん、急に!」
「1回だけやから、我慢して」
「…はぁ?!」
「…ずっと、お前とヤりたいって思っとって」
思いもよらない兄の告白に、驚きすぎて言葉が出ない。
まさか、そんなことを言われるなんて考えたこともなかった。
ずっと一緒にいて、笑いあってきたけれど。
こんなに苦しそうで、切なそうな顔なんて、一度も見たことなんて、ない。
最近のコメント