君のうなじに噛みつきたい
初めて出会ったときからずっと、恋人のユウトのうなじが大好きなアキ。そんな恋人にあきれながらも、いつもなんだかんだ流されてしまうユウト。今日こそは我慢できるのか?それとも?そして、ユウトがうなじを噛まれるのを嫌がる理由とは…?
彼の後ろ姿が、たまらなく好きだ。
そう気づいたのは、いつのことだっただろうか。
出会ったのは、高校二年の春。
通っていた予備校で偶然出会ったのが、ユウトだった。
空調の効いた教室で、いつもゆったりとしたカーディガンを羽織っていた。
その色は決まって、パステルブルー。
窓の外の空と交わりそうなその色は、俺にとっていつの間にか、なくてはならない景色になっていった。
週に二回、授業がかぶるだけの関係だったはずなのに。
最後の日、予備校前のバス停で出会って、すぐに声をかけた。
“お友達から、はじめてください!”
なんて、昭和の合コン番組顔負けの恥ずかしいセリフを言ったら、ユウトは声をあげて笑った。
そして、それが俺たちのはじまりになった。
「…襟足、伸びてる」
「切って」
「切ってっていうより…刈って、じゃん?」
「どっちでもいいから、早く」
休みの日の昼下がり、俺とユウトはいつものようにベッドの上に寝ころんでいた。
一ヵ月ほど前にきれいに刈り上げたはずの襟足は、もうすでに伸び始めている。
くるんと弧を描きながら肌を沿う髪の毛が、なんだかくすぐったそうだ。
「アキ…また俺のうなじ見てる」
「…へ?あ、あぁ…ごめん」
「ほんとすけべなんだから」
すねたような口調で、ユウトはそう言った。
彼は、俺の性癖をよく理解していると思う。
ユウトの後ろ姿と出会ってから、もう五年以上が経とうとしている。
初めて出会った日から、変わっていない白くて、やわらかいうなじ。
ユウトの言う通り、ずっと俺はそれを性的な目で見ている。
「…だって、美味しそうなんだもん」
「今日は噛んじゃダメだからね、ここ短く刈るんだし」
「ちょっとくらい…ダメ?」
そう言うと、ユウトが振り返る。
その表情は俺に向けられた不信感に溢れているけれど、そんなことは気にしない。
「…ほんとにちょっとでやめられんの?」
「うん、約束。今日こそは」
「…ふーん」
今日こそは、まさにその通り。
過去に何度も“やめられなかったこと”があったのを、ユウトは身をもって知っている。
「アキの言葉は信用ならないって、俺が一番わかってるんだけど」
「…それは…俺もわかってるんだけど…」
「わかってても、やめらんないの?」
ため息交じりに、ユウトがそう言う。
だけど、その表情はにこやかで、その先を期待しているようにも見えた。
ユウトが俺の膝の間に座りこむ。
俺はそれを包み込むように、後ろから腕を回した。
白いうなじは、もう目の前。
うっすらと生えているうぶ毛が、いつもよりいじらしく見える。
「アキが、どれだけ我慢できるか。やってみない?」
振り向いたユウトが、俺の手のひらをつかんだ。
ぎゅっと引っ張られた手のひらは、ユウトの股間の上にそっと置かれる。
好きにしていいから、って悪魔みたいな囁きが聞こえて、自分の置かれている状況を理解。
どういう風の吹き回しかは知らないけれど、俺は今、間違いなく誘われているのだ。
“据え膳食わぬは、男の恥”
そんな言葉が頭の中に浮かんで、思わずごくりと音をたてて唾を飲み込んだ。
「…その勝負、ぜひ乗らせてください」
俺は、誘われるままにユウトの体をまさぐりはじめた。
最近のコメント