ミソジのヨルキミヲ… (Page 2)
「タイチは結婚の予定とかねーの?」
そう聞いてくる男の左手薬指にはキラリと銀色の指輪がはまっている。中学時代、1番仲のよかったクラスメイトだ。3年前、その男の結婚式に招待されて以来の再会だ。
「オレは…しばらくはないかな。お前は、2人目できたんだっけ?」
そうタイチが返せば、男は顔をクシャっとして笑った。
「そうそう。奥さん今回つわり重くてさ、だから今日も終わったらすぐ帰らなきゃ」
そう話す友人の表情は、もうしっかりと父親の顔だった。自分とは世界が違うのだと、実感させられる瞬間だ。
あの日に、トモキから好きと聞かされなければ、トモキと体の関係を持たなければ、きっとこんな三十路を迎えてはいないだろうと、タイチはそう思わずにいられなかったのだ。
二次会が終わり、「この後どこか行くか」「じゃあまた」などと飛び交う声をかいくぐって、タイチは新郎と会話を終えたばかりのトモキの肩を掴んだ。
「トモキ!ちょっと…」
クルリとトモキがこちらを振り返る。今日初めてしっかりと2人は顔を合わせた。
「タイチ?」
少し声に疑問符を浮かべるトモキの顔は穏やかだ。そのトモキの顔がタイチは苦手だった。
人好きのするその顔の裏で、なにを考えているのかわからない、だからタイチはずっと、中学時代トモキに嫌われているのだと思っていたし、今だってやっぱり嫌われているのでは…と勘ぐってしまうのだ。
「あの…さ、ちょっと2人で話したいんだけど」
周囲の人間にこの会話を聞かれていないかと、様子をうかがいながらモソモソとタイチが言うと、それを察したのか、トモキは小さく頷いて笑った。
「ここからすぐ近くのウィークリーマンションに部屋あるから、来る?」
静かに言うトモキに、タイチは黙って首だけを縦に振った。
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