さよならドライバー (Page 5)

「…クソっ…なんでだよ…」

神崎は河西に背中を向けると、自身の陰茎を手でシゴいた。

先端は乾き、いくら刺激しても粘膜が痛々しく擦れるだけ。

「くそ…くそっ…」

神崎は額に汗を浮かべながら、必死に自身を慰め続けた。

「…神崎さん」

背後で河西が起き上がる音がした。

「来んな!すぐに突っ込んでやるから、そっち向いて大人しく待ってろ…!」

ベッドがきしみ、河西が神崎に近づく。

「おいっ!言うこと聞けよ!」

振り返ると、河西が哀れむような眼差しで神崎を見下ろしていた。

「そんな目で…俺を見るな…」

「今夜は、もう終わりにしましょう」

河西が神崎の肩にそっと手を置いた。

「お前が…お前が悪いんだ…恋人ができたなんて言うから…ッ」

神崎は河西の手を振り払う。

「ずっと…ずっとお前は俺のものだろうが!なのに…なんで…っ」

こみ上げてくる感情が自分でも理解できず、神崎はあぐらをかくと両手で頭を抱えた。

「なんなんだよ…これ…くそ…っ」

「…神崎さん」

しばらくの沈黙の後、河西が神崎の膝に落ちた涙を拭った。

「…は?」

膝に広がる感触に驚き、神崎が顔を上げる。

ようやく、自分が泣いていることに気がついた。

「河西…」

「はい」

「俺にとってお前はなんだ?」

「わかりません」

「じゃあ、お前にとって俺は…?」

「…わかりません」

河西は下を向いたまま小さく答えた。

「お前、なんにもわかんねぇのかよ?」

「すいません…」

「…もういい、クビだ」

神崎はベッドから立ち上がった。

床に落ちた下着を拾い、身に着ける。

スーツを探して辺りを見回すと、河西によって丁寧にハンガーにかけられていた。

「神崎さん…あの、俺…」

河西の声を無視するように、神崎はスーツを着ると玄関へ向かった。

河西は慌ててタオルを腰に巻き、跡を追う。

神崎は玄関扉を開けると、振り返らずに言った。

「ドライバーも愛人もクビだ。二度と俺の前に姿見せんな」

強く言い放ったつもりだったが、自分でもあきれるくらい弱々しい声だった。

扉を閉める瞬間、

「今まで…ありがとうございました」

という声が聞こえた。

視界の端で、河西が体を震わせながら土下座をしている。

その姿を見ても、神崎の下半身はもう熱を持たなかった。

代わりに熱い涙が頬を伝う。

2月の寒空の下、神崎は生まれて初めて失恋を知った。

Fin.

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