密事を見た部屋で超えてしまった禁断の一線 (Page 2)
「用があるなら、開ける前に声をかけろと何度も言ってるだろ」
背中を向けたまま、約束の小言を言う声は柔らかかった。
叱り文句にだんまりを決め込み反抗する。
「それで、どうしたんだ?」
言葉と共にカタンと音を立てると、体をオレの方に向けた。
向けられた表情も、声の通り柔らかくて笑みすら浮かんでいた。
さっきの淫らな様が幻に思えるほど、いつもと同じ様子の兄さん。
えり元から伸びる首筋。
チラリと覗く胸元。
裾や袖から覗くスラリとした手首と足首。
着流しで隠せないキメ細かな色白の肌が、先程の行為をフラッシュバックさせる。
犯してやりたい。
身も心も独占したい。
フラッシュバックに共鳴するよう、鎮めたはずの心身の欲がフツフツと沸き上がる。
「圭吾?」
「…兄さんって、男が好きなの?」
「…は?」
困惑気味の笑みを浮かべながら答えをはぐらかした。
当然と言えば当然の反応だが、それが理性を完全に崩壊させた。
「オレ見たんだよ。兄さんが今日、ここでセックスしてる姿」
ストレートに核心を突くと、兄さんの顔から表情が消えてスッと血色も悪くなる。
「どうなんだよ?」
詰問のような問いかけに応えると、言葉を付け足した。
「僕は…麻木千歳が好きなんだ」
その表情は硬く、焦燥や後ろめたさなどは読み取れなかった。
迷いのない凛とした声が、何故だかオレを酷くイラ立たせる。
「明日は学校だろう。部屋戻ってやることやったら、早く休め」
顔に笑みを戻して労ると、兄さんは再び背中を向けて机に向かった。
用がないなら構うな。
言動こそ優しいが暗にそう突き放した。
(勝手に消すなよ、オレを…)
存在を消されたみたいで面白くなくて、寂しかった。
「兄さん…!」
交錯する感情をぶつけるように、振り返った顔を引き寄せて唇へ自身のそれを押し付けた。
「んっ…!」
自分より一回りは小さい体を畳へ組敷き、逃げ場を奪った。
兄さんから抵抗力を奪うのは容易だった。
そのまま両手首を頭上でまとめ、拘束すれば完全に無力になる。
自由を奪い、薄く開いたままの内部へ舌を滑り込ませた。
「ッ…」
妖しく濡れた物体が、体の一部へ不意に触る。
(もっと、もっと触れたい)
少し触るだけじゃ足りなくて、逃げ惑う物体を己のそれで絡め取った。
まとわりつくような潤い。
全身の温度をも上げるような体温。
ザラッとぬるっとした先端や中央の感触。
(こんなに気持ちよかったっけ、キスって)
兄さんと唇を重ねて舌を絡めた瞬間、今までの同じ行為が儀式的で惰性的な代物に思えた。
「はぁっ…ふっ…」
湿度と湿りを含んだ吐息が頬裏の粘膜を撫でる。
それは確かな甘さを含んではいるが、苦しそうにも思えて反射的に唇を離した。
「これで…満足、したか?」
潤む瞳を向けたまま、乱れた呼気が混ざる不安定な声で言った。
兄さんの体温も上がっているのか。
さっきまで血色のなかった頬はもちろん、着物からチラチラ見える肌がほのかに桜色に染まっていた。
「満足したかって?」
拘束していた手首を解放して半身を起こす。
「満足するわけねえじゃん」
見下ろしたまま吐き捨てるように言ってから、首筋へ顔を埋めた。
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