欲望が満たされる日を望んで (Page 2)
彼の姿を視界に捉えると、清太もまた目を見開いた。
「どうしたんだ…?」
「僕に近寄るなっ…!」
秘めたる複雑な欲情を押し殺しながらも声をかけると、清太は微かに瞳を泳がせながらも声を荒げて気遣いを跳ね退けた。
恐怖心。
言動の裏に、大翔は威圧ではなくそれを感じ取った。
(…まさか)
見ている側ですら狂気に巻き込みかねない妖艶な乱れ姿、嗅覚がマヒしそうなくらいに漂い続ける重くも濃い匂い。
「…お前、オメガか?」
本能的に清太の性を察知した大翔の唇は、彼の意思とは関係なくそう紡いだ。
「そうだっ…僕はオメガだ」
発情期の欲情に理性を奪われながらも、凛とした声での回答にストンと腑に落ちた気分だった。
何か月かに1回はあるシフト表の1週間連続の公休日。
同じ空間に居ればフワリと漂う甘ったるさを含んだ微かな匂い。
思い返してみればもしかしたらと思う点はあったが、大翔の中で確実になった。
「だからアルファのお前は、今は僕に近付くなっ…!」
(知ってたのかよ…)
叫ぶように言って気持ちが高揚したのか、清太が放つオメガフェロモンがさらに濃くなっていた。
「でも来てるんだろ…発情期」
「時間が経てば、こんなの…」
強がって意地を張るも、清太の仕草はすべてがおぼつかない。
情欲が退き、すぐ落ち着くようには見えなかった。
ただ優秀な遺伝子を生み出すだけの存在。
人間らしい理性がなくなり、日常生活を送るのも困難になる―それがオメガの発情期。
発情期がないアルファにその苦しみは完全に理解し得ないが、確実にわかることは1つ。
――人間らしい思考がなくなっていく苦しみ
それは大翔も理解しているつもりだった。
(…ただの人助けだ)
そう自身に言い聞かせながら、彼は言った。
「オレとしろよ、セックス。そうすれば今は落ち着くだろ」
すると清太は官能にもだえながらも、アルファの男へ鋭い表情を向けて応えた。
「ふざけるなっ…僕はっ、一生お前の支配下に置かれるつもりはない」
大翔にとって清太はアルバイト先の年下の先輩でしかない。
関係を発展させ、果ては番となって一生を背負う気はない。
そう思っているが…
(あれ、何だ。この気持ち)
防衛本能を剥き出す清太に、大翔は疎外感や寂しさを強く感じた。
お前は眼中にない。
お前はお呼びじゃない。
暗にそう伝える一言が大翔の中の何かを切断した。
「うるさい、黙れ…!」
理性を刻々と削られながら、オメガフェロモンを放つ清太に近付くと自身の顔面を彼のそれに近付けた。
「今は黙ってオレに支配されてろ!」
有無を言わさず、真っ赤に色付く熱い唇へ自身のそれを押し付けた。
(熱くて…柔らかい)
しっとり潤う唇の感触に、大翔はすべてを受け入れられた錯覚を覚えた。
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