最後の夜
プロのバスケットボール選手の祐希と和也。出会ってから数年、お互いに恋心を寄せつつも想いを告げることはなかった。しかし、祐希がアメリカのリーグへ挑戦することが決まり和也は意を決して、自分の想いを告げようと祐希の家を訪ねる。そして二人の、最初で最後の夜が始まる――
最後の夜だと、わかっていた。
明日、祐希はアメリカへと旅立ってしまう。
同じチームで過ごした数年、俺のそばにはずっと祐希がいた。
俺より年下なくせに、口が達者で、生意気で。
かわいい後輩かと言われれば、そうではなかったけれど。
それでも、今の俺がいるのは紛れもなく祐希のおかげで。
「…明日、何時の飛行機?」
「何時だろ…昼頃かな」
「ちゃんと確認しとけよ」
もうほとんど荷物のない、祐希の部屋。
窓の外を見ながら、そんなことを話した。
広いベッドに、二人横並びで腰掛ける。
視線を交わらせないまま、祐希が小さく呟いた。
「…あっという間でしたね、6年」
どことなく寂しそうな横顔が見えて、思わず口をつぐんだ。
なんと声をかけていいのか、わからない。
「なんか、和さんにはほんと…世話になったっていうか」
「めちゃめちゃ世話したもんな、俺」
「…そういうとこが、モテない原因っすよ」
わかってる、って言うと、明るい笑い声が響いた。
よく聞いたこの声も、もう聞くことができないかもしれない。
一気に寂しさがこみあげてきて、思わずため息をついた。
そんな俺を見て、祐希が缶チューハイを渡してくる。
「ほら、和さんの好きなやつ買っといたよ」
「…サンキュ」
試合の後、よく二人で反省会をした。
バスケットコートのある公園のベンチで。チューハイ片手に、何分も、何時間も。
「まぁでも…ホントに俺が、ここまで来れたのは…和さんがいたからだって、思ってるんで」
入ってきたときは、線の細いクソガキだな、と思った。
見た目のチャラさから、誤解されることもたくさんあっただろう。
だけど、本当の祐希は、誰よりも努力して、誰よりも考えて、誰よりも必死だった。
そんな祐希を、俺は誰よりも近くで見ていた。
そして、許されることなら、この先もずっとずっと、隣でその姿を見ていたいのだ。
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