それに名前をつけるなら、最愛。 (Page 7)
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「そういえば、カイくん。帰らなくていいの。婚約者、待ってるんでしょ」
シャワーから戻ったリクは、先にシャワーを済ませて勝手にリクの部屋着を身につけてソファでくつろいでいるカイをジトリと見て聞く。
「ん。今日は弟のトコ泊まるって言ってきたから」
「ふぅん…」
のんびりとした相づちをかえし、リクはカイの隣に1人分の距離をあけてストン、と腰掛けた。
それをチラと見てから、カイは静かに話しだす。
「あのさ、リク。さっき聞いてきたこと」
「へ?」
「『何で結婚するの?』っ…」
グルリと記憶を反すうするみたいに視線をさ迷わせて、リクは「あぁ…」と小さく呟いた。
うん、と頷いてカイは続ける。
「俺、いつか結婚して家族を作りたいってずっと思ってた。けど、リクが俺の中でデカすぎて。だから、家族ってのに夢をもちながらずっとリクと一緒に生きてく人生でもいいなぁ思ってたんだけど。もしリクが誰かと結婚したら…って考えたら、俺は多分耐えられないし、リクのこと手放せなくなるかもしれないって思ったんだ」
「ええ…そんなに僕のこと好きだったの?」
茶化すような口振りで言って、グスッとリクは鼻をすすった。
「ズルいからさ、俺。リクが誰かと結婚する前に、自分がさきに家庭作ってしまおうって思った。その…彼女のことはちゃんと好きだし、あの娘とならいい家庭を築けそうだとは思ってて…」
「急にノロケ?」
「や…違うんだ。リクを諦めるために適当に結婚するってわけでもなくて。ちゃんと相手も好きで…でも違うんだよ。リクに対する想いとは全然…」
「いいよもう。それでいいんだと思う。僕も多分同じだよ。このさき誰かと結婚するかはわからないけど、どれだけ人を好きになっても、カイくんに対する感情とは別だって思うだろうから」
そう言って笑うとリクは「タクシー代出すから帰ってあげてよ」とやはり寂しげに笑った。時刻は深夜1時。
「え、泊まったらダメ?」
「うん。ダメ」
そうリクに言われ、カイは仕方なくノロノロとソファから立ちあがった。
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下まで送るとリクが言い、共に玄関を出た2人の後ろでバタンと重い扉が閉まった。その音を聞いてカイはすぐ後ろに立つリクに振りかえると、切なげに眉を寄せた。
「なぁリク。もしお前が、結婚なんてするなって言ったら俺は――」
スィ…と伸びてきたリクの人差し指が、カイの唇に触れた。
真剣な顔のリクがフルフルと首を振る。
「ダメだよ、カイくん。部屋からでたらもう終わりでしょ」
抱きしめたいと思ってしまった手をグッと握って、カイは「ゴメン」と小さく告げた。
すべて部屋の中にさらけだして置いていくと、決めたのだ。
振りかえらないように、前を向いて歩けるように。
「結婚式、呼んでくれる?」
「当たり前だろ。弟なのに」
「ふふ。そうだよね。おめでとう、おにいちゃん」
ひっそりとしたマンションの廊下に、2人の静かな笑い声が流れた。
Fin.
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