×××しないと出られない部屋 (Page 5)
「高橋くん、これお願いね」
「はい、やっときますね」
目が覚めると、俺は家のベッドにいた。
あれは夢だったのか、なんだったのか、結局のところ俺にもわからない。
仕事に来てみても、何も変わらない。
俺はいつものように押し付けられた仕事をこなすだけだし、相変わらず木村は女性社員に囲まれていて、いけ好かない。
そして、今日も残業コース。
デスクに置かれたデジタル時計は、間もなく17時になろうとしている。
飲み物でも買いに行こうかと、席を立とうとしたその時だった。
「あのー、すみません。これ、ギリギリになっちゃったんすけど」
聞き覚えのある声。そこに立っていたのは、木村だった。
ドクン、と胸が高鳴る音がする。
あんなの夢だったんだと自分自身に言い聞かせても、体温はどんどん上がっていく。
「…わかりました、やっときますね」
本当は言ってやりたい、こんなのギリギリに持ってくるなって。
だけど、アレを思い出して、恥ずかしさで顔をあげることすらままならない。
奪い取るみたいにして書類を受け取って、いそいそとデスクに向かう。
こんな日にやってくるなんて、俺はやっぱり心底ツイてない。
「あ、待って」
木村の声で呼び止められる。
おそるおそる振り向くと、木村は不敵な笑みを浮かべて笑っていた。
「…なんですか」
「やっぱり、それナシで」
「え…っ」
気が付けば、腕を引っ張られて引き寄せられていた。
耳元に木村の唇が寄せられて、甘い声でささやかれる。
“今日の夜、会いたい”
まるでそれは、悪魔のささやき。
俺は言われるままに、首を縦に振ることしかできなかった。
Fin.
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