炭酸ジュースとお酒 (Page 3)
別に、カズシがどんな人と付き合おうがそれは自由だ。紹介されて、嫌いなタイプだと思ったら正直に言うけれど。カズシに恋人ができること自体はどうでもいい、はずだ。
ただなぜか、顔を見てもいないその男を、すでに嫌いだと俺は思っていた。
カズシはフフッと笑う。
「いや、嬉しかったけど、そういう目では見れないって断ったよ」
たった今、胸の中にあった黒いモヤみたいな嫌な気持ちがスーッと溶けて消えていった。
「変わらず友達でってオレからお願いしたけど、向こうはどうなんやろな。もう大学でも喋ってくれへんかも。それならそれで仕方ないか…って思ってたらなんか急に、トーマのこと思い出してん」
「なんでそこで俺…」
「もし告白してきた相手がトーマやったらって考えてん」
「いやだからなんで…」
「もしトーマともう会えんくなるとか考えたら嫌やなって。ほんでな、じゃあもしトーマがオレのこと好きやったとしたらトーマと付き合えるか?て考えてん」
どうしても俺がカズシを好きなことにしたいらしいので、もうツッコむのはやめた。
それをどう捉えたのか、缶チューハイを持つ俺の手をカズシはギュッと握ってきた。
「オレ、トーマなら付き合えるって思った」
「は?」
「やから、トーマとなら恋人になれるなって」
「意味がわからへんけど…」
「トーマは?オレと付き合える?」
冗談にも本気にも聞こえるその言葉に、まさに俺は返す言葉を失った。
「まぁ…急に言われても実感わかんかもやけど、1回試してみーひん?」
「なに…っ――!?」
なにを、と聞こうとしたら、不意にカズシは体を動かして、ためらいもなく俺の唇を奪ってきた。
パインとアルコールの香りと、ほんのりと冷たい唇の感触に、ドクンッと胸が鳴る。
はむ…と俺の唇に吸いつくようなキスをしてから、チュとわざとらしい音をたてて、カズシは俺から離れた。
俺の手から滑り落ちた缶が、カコン、と音をたててテーブルにぶつかり倒れた。
こぼれた酒が、シュワワ…と細かな気泡をたてながらテーブルを濡らしている。
ペロリとカズシは下唇を舐めた。ちらりと覗いた赤い舌がやけに毒々しい。
「うん、やっぱりできるわオレ。なぁトーマ。ものは試しっていうやん。もしあかんかったら綺麗さっぱり忘れるってことで、1回してみよーや」
カズシはスクッと立ち上がり、中途半端に開いていたカーテンをシャッと締めた。狙いを定めた狩人のように、俺を見下ろしてカズシは言う。
「オレと、セックス」
ポカンと口を開けている俺の肩をカズシは掴んで、そのまま畳の床にドサリと押し倒してきた。
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