砂漠の一夜

・作

魔法使いが多くいた古代アラビア。地平線の彼方まで広がる砂漠の向こう。そこにひっそりとした国があり、若くしてその国を治める王がいた。その王の名はアシュラフ。そして、奴隷として献上された踊り子のサクル。しばらく共に過ごすうちにアシュラフはサクルを気に入り、サクルはアシュラフに好意と劣情を抱いていた。そして、ある晩…。

しなやかな体躯(たいく)にまとった、オーガンジーのような薄紫色の布を優雅にひるがえす。
そのたびに、その布に縫い付けられた金具やアクセサリーが小気味よい音を奏でた。
蝶のように軽やかに、時に燃え盛る炎のように猛々しく。
天蓋に包まれ、いくつも置かれたクッションに身を沈めながらその姿を眺める一国の王に向けて踊る。
ほろ苦いぶどう酒が与えてくれる心地よい気だるさに身を任せている姿が目に映り、動きを止めた。

「アシュラフ様、眠いのでしょう?眠るのならベッドに行きましょう」

「…まだ…お前の踊りを見てみたいよ」

「…っ…光栄です。でも、明日もまたあなたのために踊りますから、今日は眠りましょう」

日頃から素直な態度だが酔いが回っている今、さらに真っ直ぐな言葉がサクルの心に響き、照れくささを隠しながら王の体を抱き上げた。
すると、いつもより酔っているのかアシュラフはサクルの首に腕を絡めてきた。

「っ…!…アシュラフ様、腕をお離しください…」

「ははっ、サクル真っ赤だ。…今日は一人で寝たくない気分だ。たまにはよいだろう?」

「あはたは何もわかってない…っ…」

何の計算もない、ただ酔いに任せて甘えているだけだからこそたちが悪い。
サクルは最早、今まで心の奥底で渦巻いていた感情をコントロールすることができず、アシュラフをベッドに下ろすと覆い被さる。

「煽ったのはアシュラフ様の方だ…俺の気持ちなんか知らずに」

耳に唇を寄せ、低く振り絞るような声でそう囁くと噛みつくように唇を重ねた。

*****

本能のままに舌を絡めていると、明らかに若き王の瞳が酔いではない恍惚(こうこつ)の色をにじませ始めたことに気づいた。
その蠱惑的(こわくてき)な瞳に自らの身分を忘れ、逃げられないように細い腕を先ほどまで踊りで使っていた布で上に縛り上げる。
あふれ出る独占欲はもう、自分にも他人にも止められない。

「ずっとこうしたかった…あんたが欲しかった…」

「ん…サクルなら、いいよ…」

呼吸は獣のように荒く、抵抗されないのをいいことに、いささか性急に服をはだけさせると褐色の肌を手の平でなぞる。
その滑らかな感触は、欲情を一層煽るのに十分で、さらに味わおうと首筋から胸元、腹部と舌を這わせていく。

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