罪と蜜 (Page 2)
翌日、そのまた次の日、一週間とそのマントの男は私の元に通ってきている。
懺悔の内容は、いつも同じで食料を盗んだことへの許しを求めるものだった。
しかし、一週間を過ぎてから数日ほどその姿を見ていない。
そして脳内がその青年のことで占め始めた頃、再び彼は姿を現した。
「自分が怖い、助けてくれ」
彼を見た瞬間、安堵とも嬉しさとも形容しがたい感情を覚え、自らを律するよう眼鏡のズレを直す。
いつも通り懺悔室に案内をしようと口を開いた瞬間、彼は急にその言葉を口走った。
以前とは違う言葉にわずかに動揺をしたが、思い返すとここ最後の3日ほどは話し方に変化があったように思う。
最初は淡々と小さな声で話していたが、少し興奮のような抑揚がつくようになっていたのだ。
すでに、このときには彼に特別な感情が芽生えていたのか、今日は深く踏み込んでみたいと思った。
心中に葛藤はあったものの、今回は懺悔室ではなく礼拝堂に並ぶ長椅子に座るよう促した。
「…そう、ですか…弟さんが…。しかし、あなたの思いや行動は弟さんを救っていたと思います」
「…今までは、弟のためと思っていた」
「と、言いますと?」
「自分の食料を得るためはもちろん、盗むということ自体に…その行動のスリルが忘れられなくなった」
彼が私の元へ訪れなくなった日、弟はついに亡くなってしまったらしい。
それからというもの、弟のためにしていた盗みに悦を見出してしまったようだ。
表向きは庇護欲。心の根深いところでは別のもやに包まれたような、ほの暗い影があることに目を背け、私は他の神父やシスター、信徒達に見つからないよう匿うことを決めた。
「…私の名前はヨハン。今日から、私の部屋で暮らしなさい。あなたの名前は?」
「…俺は…ロットだけど…なんで…」
「あなたのしていることは、神は許しても国は許さないでしょう。ですから、その衝動が収まるようお手伝いします」
有無を言わせないよう、わずかに脅迫めいた言葉なのに、彼のブルーグレーの瞳に希望をいだいた光が灯った。
初めてちゃんと顔を見た気がする。
純粋ゆえに汚れてしまった彼を救うという口実を掲げ、私はその雨上がりの空のような瞳が自らに向くことに優越感に似た感覚を覚えた。
それから、彼は毎日私の部屋で他の者に勘付かれないよう、息をひそめるように静かに過ごしている。
恩義を感じているのか、なるべく音を立てないように部屋の掃除をしてくれる。
そんなロットをさらに懐柔するように食事を与え、読み書きが苦手だという彼に本を与え教え始めた。
「ヨハン!この本、読み終わったぜ!少し難しかったけど…でも、面白かった」
「ロット、静かにしなければバレてしまいますよ。…おや、もう読み終えたんですか。優秀ですね、では次の本を与えましょう」
ロットは私が読むよう渡した本を読破すると静かに過ごしていたのを忘れ、私の夜闇のような漆黒の髪とは違う栗色の毛を子犬のように揺らして駆け寄り、瞳を輝かせながら報告してくるのだ。
この数日間でロットは私にかなり懐いているように見える。
私といえば、日々彼に触れたいという気持ちが膨れ上がっていく。
盗みを我慢できたという口実で頭を撫でる、肩をそっと抱くなどの軽い接触から始めた。
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