穢れなく美しい理由 (Page 3)

 心地よいそよ風と美味しそうな匂いに意識が引き寄せられる。

 ジューッ…。

 カタッ…コトッ…。

 今まで聞くことがなかった生活音が聞こえる。

「ん…?」

 重い身体を起こせば、いつもの通りキャンバスだらけの部屋にいる。

 けどいつもと違って、床に散らばるはずのキャンバスが壁にかけてあったりと整理整頓されていた。

 それから半裸状態の自分にはタオルケットがかかっている。

「あれ、起きたんだ。おはよ」

 現状に困惑していると、ひょこっと隣の部屋からきれいな顔の男が姿を見せる。

 翼くんはダボダボの俺のTシャツを身に着けていた。

 膝を抱えてしゃがむ翼くんの腕や足、首や鎖骨、チラリと見える胸元、ガバッと開く肩からは無数のキスマークが見える。

 紛れもなく事後。

「昨日のこと覚えてる? って言っても二日たってるけど」

「…二日?」

「一昨日の夕方に僕がここに来てから襲われて、離してもらったのが昨夜なの。絶倫にもほどがあるよ」

「…ごめん」

「いいよ。もう終わったことだし」

 翼くんは『よっこいしょ』と二十歳とは思えないくらい重そうに腰をあげる。

 腰を押さえながら歩き去る彼を見ながら、おぼろげにある諸事の記憶を思い出す。

「はぁ…。ノンケ相手になにやって」

 ため息とともに出た独り言に、

「なにブツブツ言ってんの。ご飯作ったから早く食べよ」

 翼くんの呆れた声が隣室から飛んできた。

 翼くんのいるリビングはゴミばかりで物が散乱している。

 そんなところで食事なんて作れるわけがないし、食事ができるわけがない。

「そっちよりも…──え?」

 開けっ放しのドアから見えるのは、きれいなリビング。

物が散乱していて歩くスペースどころか、ソファーとテーブルまでもが埋もれていたのに今は姿を現している。

 しかもそのテーブルの上には美味しそうな匂いを漂わせる食事もあって…。

「これ、どうして…?」

 声をかけながらリビングに出ると、翼くんが首をかしげながら振り向く。

「ゴミ屋敷で僕が過ごすわけないでしょ。あ、勝手に触ったり捨てたりしたことは謝らないから」

「それはいいけど…」

「ほら冷めるから食べよう」

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