初対面のアルファと発情期の末に結んだ疑似的な番の契約 (Page 3)
「ひあっ…あっ、あっ!」
中を満たす指の腹や爪先が特定の箇所をかすめた瞬間だった。
この上ない熱さ、うずきに声が上がると同時に全身がビクンと跳ねた。
「あ、見付けた。葵くんのイイとこ」
探し物を見付けたような嬉々とした声で言うと同じ場所へ同じ衝撃を与えたまま、猛さんは次に玉の部分を口に含んだ。
表皮がピシッと張り詰めているであろう上下唇で挟んだり。
へこんでいる部分をゆっくり舐め上げられたり。
遺伝子の生産を急かすような仕草に、理性が薄れていた僕は呆気なく高みへ連れられた。
体温が一カ所に集中する。
「はっ…あっ!」
溶けるような蒸し上がるような熱さに短く喘ぎを漏らしながら、全身を硬くして溜め込んだ精を吐き出した。
心身共に静止させて吐精を終えると、酸素の吸収を再開させて猛さんの下肢にぐったりと頭を預けた。
「あーあ、また葵くんが先にイッちゃった」
「あっ…はっ…」
ゴメンなさい。
そう言いたいのに唇が上手く動かせない上に、整え切らない呼吸では意味のない音しか発せられなかった。
「口でイカせてもらうと思ったけど…」
そんな一人言と共に、ふわりと体が浮き上がるとそのままベッドへ下ろされた。
「やっぱり中でイカせてもらおうかな」
されるがまま、腰だけ高く上げる体勢にされる。
(あの硬い性器が僕の中をこれから突き上げる…)
熱が冷めやらない中で久しぶりの感触を待ち望むも、僕の入口はただ筋肉を収縮させるだけだった。
後はゴソゴソと何かを漁る音が聞こえるだけ。
“どうかしましたか?”
そう問いかけるよりほんの少し先に答えたのは猛さんだった。
「避妊具、もうなくなったみたい」
“それなりに用意はしてたんだけど”
そんな呟きの意味を確認したくて、手探りでスタンドライトの明かりを灯した。
オレンジの光が鈍く照らした物体に、僕は堪らず目元に力を入れた。
重力に沿って照らされる先には、白濁とした液体が入った避妊具が無数に転がっていた。
この惨状で猛さんの一人言の原因が自分だと理解すると、羞恥や申し訳なさで一杯になった。
「…すみません」
「何で葵くんが謝るの。オレがヤりたくてヤったんだから」
困ったような笑い混じりに言う彼へ、どう返事をしたらいいか見当がつかなかった。
「…まあとりあえず、買ってくる。まだ収まりそうもないし」
「このまま、続けませんか?」
離れようとする猛さんへ、僕は顔だけ向けて引き止めた。
一瞬だけ虚を突かれたような顔になるが、再び困惑混じりの笑みが浮かぶ。
しかしそれは先刻よりも複雑で、取り繕っているのが明白だった。
「でも、妊娠したら困るでしょ?」
「緊急避妊薬を、飲めば何とかなります」
半ば反射的な言葉に、猛さんの顔からとうとう笑みが消える。
緊急避妊薬は市販薬じゃないし、吐き気や倦怠感などの副作用も少し辛い。
それに、産婦人科へ処方箋をもらいに行くのも少し勇気が要る。
だがここで行為を中断したら、もう2度と猛さんの熱を味わえない気がした。
彼の体温を心ゆくまで貪れるなら…
妊娠しようが副作用や羞恥で苦しくなってもいい。
それだけ猛さんを欲していた。
それがオメガの本能かは不明だが、今の僕が欲しいのは彼の体温だけ。
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