彼の泣きぼくろ
社員旅行にきていた吾妻は、いつの間にか宴会で酒に酔い潰れ、裸になって眠ってしまう。そんな様子を見て、迷惑だからと吾妻を起こす冴木。まだまだ寝ぼけたままの吾妻は、そんな彼の目元のほくろに誘われるように、彼にキスをして…。
「…きろ、起きろ!吾妻!」
そう体を揺らされ、ぼんやりと目覚めた吾妻。目の前に、なぜか上司の冴木の姿が見える。
夢…?ってか、やっぱりこの人えろいよなぁ。
なんかいい匂いするし。
冴木は吾妻の上司の男であり、仕事の鬼ではあるが、吾妻はそんな彼の容姿がタイプで。
日に焼けてない白い肌と、目元のえろいほくろ…。
吾妻は手を伸ばしてそのほくろに触れると、そのまま体を起こしキスをする。
「あー、やべーリアル。唇やわらけー」
「リアルだ、馬鹿!」
そう、彼に頭を強く殴られて、吾妻はそこで自分が裸になっていることに気づいた。
あたりを見回すと、見覚えのない場所に会社の連中が雑魚寝していて…。
「いいから、早く服を着ろ。部屋に帰るぞ」
そこまで告げられて、ようやっと、社員旅行に来ているのだと気づいた吾妻。
そういえば、大宴会があって…散々、酒を飲まされてからの記憶がない。
「あーっと、すみません、冴木さん。っと、俺なんか粗相しました?」
「知らん。俺が面倒な宴会を抜けて様子を見にきてみれば、こんな状態だ。他のやつはこのまま寝かせといてもいいが…お前は…その…」
落ちていた旅館の浴衣に袖を通す吾妻は、言いづらそうに彼が口をつぐんだのを見て、苦笑いを返す。
「ゲイっすからね、確かに。そういうの疎そうな冴木さんにまで知られてるんだ」
吾妻の性癖に関しては別に隠しているものではない。
明るい性格と人懐っこい笑みで、普段は何も気にせず過ごしている彼らも。確かに吾妻が一緒の空間に、それも裸で寝ていたら気にすることもあるだろう。
ゲイってだけで、何でも括られるのはもう慣れたことだが。
別に仕事だって枕しているわけじゃないし、相手だって男なら誰でもいいわけじゃない。
…とまぁ、こうして冴木に寝ぼけてキスする時点で、それももう信じてもらえないだろうが。
「いや…その…興味がないわけじゃないんだ」
服装を整え、近くに落ちているはずの携帯と部屋の鍵を探す吾妻は、そう、冴木がぼそっと呟いたのを聞いて動きを止める。
「は?」
「あ…いや…その…」
顔を赤くして、しゃがみ込んだままの彼。
吾妻はふと思いついて、彼の前に同じようにしゃがみ込む。
「もしかして、俺の体見て興奮しました?」
そう彼に声をかけると、彼は驚いたように尻餅をついて。
そうして浴衣の間に昂(たかぶ)った彼のものが見えた。
「ちが…っ、これは吾妻が、急に…」
「キスしたから、それだけでこんなになるんですか?」
「…っ、それは」
そんなやり取りの中、うーんと煩(うるさ)そうに同僚が寝返りを打ったのを見て、吾妻は冴木の腕を掴んで宴会場を出た。
「冴木さん、俺の鍵、見当たらないんすけど、部屋入れてもらえます?」
人気のない廊下で彼に向き直る吾妻。
大抵、社員は2人か3人1組で部屋割りにしているはずで。
職場で鬼である冴木は同部屋になりたい奴がいないからと、幹事が1人部屋に割り振っていたのを吾妻は知っていた。
「…少しだけなら」
明らかにガチガチに緊張している彼を前に、吾妻はひっそりと笑みを漏らす。
どう見たって、彼は吾妻のことを意識している…多分、裸を見てからだろう。
ある程度は見た目にも気を付けている吾妻はだが、ジムに通っているのは、ただ、トレーナーにセフレがいるからなんて理由で。
…そういえばあの宴会場で服を脱いだのも、そんな筋肉の自慢をしていたからだった。
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