彼の泣きぼくろ (Page 4)
「目が覚めたって本当だったんだな」
その日、医者から連絡を受けたのだと、1人の男がやってきた。
吾妻よりはずっと年上の彼は、青白い顔をしながらも、吾妻が無事だったことを喜び、そうして抱き寄せてキスをしてきた。
「ずっと後悔していた。お前と恋人にならないままに、勝手に逝かれると思って、俺…」
そう涙ながらに語って、強く抱き寄せてくる彼。でも、吾妻にはさっぱりで。
これが医者の言う、記憶がない未来なら。彼が今の恋人…いや、恋人ではなかったって言ってたから、セフレかなんか?
そうであるのなら、そんな未来も悪くはないと思う。
なにより、未来の自分はセンスがよすぎる。
こんな美人で、えろくて、いい匂いがする男を落とせるなんて、いったい何をしてきたのだろう?
「…吾妻?」
不思議そうに吾妻を覗(のぞ)き込む彼。吾妻は嬉しくなって、そんな彼にキスをした。
彼が舌を絡めてきて、お互いに止まらなくなるようなキス。けれど、吾妻は途中で彼と離れた。
名残惜しそうに舌を出していた彼。吾妻はどうしていいかわからず、彼の手を取った。
「あのね…落ち着いて聞いてくれる?…俺さ、あんたのこと、わかんないんだけど」
そう伝えたタイミングでやってきたのは、両親で。
吾妻の顔を見て安心する彼ら。けれど、両親の姿も記憶よりはやっぱり老けていて。
吾妻は母親の手を取って確認する。
「俺さ、今、15歳なんだけど」
仕事を抜け出してきたという上司?というか、恋人?の男が去って、吾妻はとことん両親に質問攻めにあっていた。
けれど確かに自分は高校生だし、彼らがいうように、会社勤めしてる自分なんて想定できなくて。
なんなら、不登校気味だったので、そういう意味で自立できたのはよかったなぁなんで安心できる。
「…15って言えば、あんたが1番辛い時期ね。どうして、戻っちゃったのかしら」
「母さん、そう言ったってしょうがないさ。こればっかりは、脳の問題だし、どうしようもない。今日は休ませてあげよう」
彼らが去って1人残された吾妻。考えるのは、さっきまでここにいたあの名前も知らない男のことで。
もう一度話したい、そう思うのに彼のことは何にも思い出せないままだった。
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