画面越しの彼よりも (Page 4)

「おい、あんた。ここでしゃがみ込むな。具合悪いなら、席に座れよ」
それからどれだけ経ったのだろう。春樹はそう声をかけられ顔を上げた。

…しかし、すぐにそれを後悔する。
また、シマに声をかけられたのだ。

「…朝に会ったやつか?ずっと具合悪そうだな。病院連れてってやるか?」
そう告げられ、彼に触れられた春樹。
知らない男に触れられて気持ち悪かったはずなのに、春樹だけは嫌じゃなくて。

「…どこか休めるとこ、連れてって」
勇気を出してそう告げて彼の体に抱きつけば、彼は次の駅で春樹を連れて降りた。

*****

入ったのは、駅からすぐのビジネスホテルで。
ベッドに春樹を促したシマは、タバコを咥えて近くの椅子に座る。

「…お前、ハルだな?じっくり見てわかった。腰とか、実際そんなに細いのな」
彼に名前を当てられ、春樹はびくりと肩を揺らす。

またさっきみたいに、多くのうちの1人だと思われているのかと思っていたからだ。
ベッドに座ったままうつむいてばかりの春樹は、返事に困って唇を噛んだ。

「朝は…正直、すまなかった。お前にあんなこと言うべきじゃなかった。ハルのことは特別に思ってる…今更言ってもって感じだろうけど」
そう言って、煙草の煙を吐き出した彼は、小さく頭を下げた。

「でも…俺以外にも…」
「そりゃぁ、俺だって男だしな。でも、実際、ハルのこと目にして、今は他の奴なんてどうでもいいって思えてる。あんなに焦がれていたお前が実際目の前にいるって、やっぱすげぇわ」
シマの熱っぽい視線に晒されて、春樹は恥ずかしくなってシーツに包まる。

彼はタバコの火を消して春樹の横に座った。

「お前のこと抱きたい。無理なら…まぁ、またいつものようにやり取りくらいはさせてくれ」
そう言って、春樹の体をシーツごと抱き寄せるようにした彼。
身動きできないでいる春樹の髪にキスを落とした。

「…っ、じゃぁ」
春樹は意を決して、想いを口にする。

「抱いてもいいよ…そのかわり、今日でもう終わりにする」
シーツから顔を出した春樹は、そう彼に告げた。

駅からここまでに来る間に考えていたのだ。
今日彼に一度抱かれて…それを思い出に生きていくのもいいかもしれないと。

嫌な過去を、彼とのえっちで上塗りできるなら。
それを思い出に後は全部しまいこんでしまえばいい。

「もう連絡取らないってことか?」
しかし、彼の声はずっと冷たくて。
春樹は緊張して、手足の先から冷えていく。

「…っうん。だって、別れるってなったら、多分俺、死んじゃう」
万が一にでも、彼と恋人になれたらなんて、考えたこともあった。
けれど、終わりが来た時に残るのはきっと大きな後悔だけで。

だったら、最初からそんな期待なんて持たない方がずっとマシだ。

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