気ままなサソリ (Page 4)
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ある日のこと。
その日は朝からディヤも使用人たちもバタバタと忙しそうで。
湊の乳を飲み終えたヒューイは話を聞いてくると言って部屋を出た。
そんなとき、1人残された部屋で、湊はまたあのサソリに出会う。
どこから入ってきたかわからないそのサソリは、けれど今日は襲ってくる気配がなくて。
『ご苦労だったな』
そう、突然声が聞こえた。
「え…?」
『次の役目を持つ者を呼んだのだ。ヒューイも順調に大きくなっているのだから、お前のことももう必要ないだろう』
神の使いだというサソリだから、きっとそれは神の言葉なのだろう。
湊は、恐れていた出来事に体が凍りついた。
『今後世界を担っていくのに、ヒューイともう1人くらい生まれればなんとかなるだろう。この世界は、お前にとっても生きづらい世界だったろう?帰って構わないぞ』
湊はサソリのそんな言葉に堪えきれず、涙が溢れる。
たしかに、死にそうなほど暑いし、周りは砂漠ばっかりで、ヒューイを産むのに死にそうにもなった。けれど…。
「嫌だ…まだ」
『そうなのか?まぁ好きにしろ。呼べばまた来てやる』
そう言ってサソリは消えていき、湊だけが残される。扉が空いたのはそのあとすぐのことだった。
「ミー!新しい神のお告げがあったって!!」
それから数日して、サソリの言う通り、湊と同じように砂漠で、神の使いだという人間が見つかった。
湊よりずっと若くて可愛い彼女は、王族の人間同士での争いも激しく。
彼女を見つけた王子が殺されるなんて事件が起きてから、より一層混乱が強まった。
湊のような歳のいった男よりも、彼女の方がずっと利用価値があるからなのだろう。
ディヤもまた、いろいろ追われることがあるのか、帰ってくる日が少なくなって、そうして…あれ以来、キスしてくれることも無くなった。
当然かもしれない。ディヤもまた、湊よりも、今は彼女に夢中なのだ。
「だから言ったろ、あいつより俺だって!」
目に見えて憔悴(しょうすい)している湊を慰めたのはヒューイで、未だ幼い彼にそこまで気を使われることが、湊にとっても心苦しいことだった。
「ヒューイ。俺、もうすぐ消えようかな…」
だからそう、ぽつりと漏らしてしまう。
「は?なんだよ、それ!ミーがいなくなったら俺…っ!」
「ヒューイなら大丈夫だよ、ここの人たちとやっていける。…でも俺は駄目なんだ。俺は…」
苦しくなった湊が、死にたいと強く思うと、目の前にサソリが現れる。
「っ、おい。逃げるな、湊っ!」
最後にヒューイにそう、初めて名前を呼ばれて。サソリが、湊に針を刺した瞬間、目の前がぐわりと歪む。
ヒューイの泣きそうな顔が、湊の最後の記憶で…。
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