初恋 (Page 2)

何年ぶりだろうか、恭介の部屋に上がるなんて。リビングはクーラーの効きが悪いからって、自室に僕を招き入れるなんて、まさかの展開すぎる。そのへん座って、って意外ときれいな部屋の隅にちょこんと座ったら、こっち来いよ、と腕を引っ張られた。
よろけた拍子に、恭介に抱きかかえられる形になる。僕は気恥ずかしくなって、ごめん、とすぐに体を離した。
恭介は、なんだかばつが悪そうな表情を浮かべたまま、僕の隣に座って、小さくため息をついた。

「あのさ、お前…なんでいつまでもノートなんて持ってくんの」

ドキッとした。なぜかと問われても、はっきりとした答えが見つからなかった。幼馴染だから?恭介を放っておけないから?いや、それだけじゃなくて。もっと大切な理由があるはずだ。
黙り込んだ僕を見て、恭介はまたため息をつく。きっと僕のこういうところに、恭介はイライラしているのだろう、そう思うと何か言わずにはいられない。

「…だって、せっかく恭介と一緒の大学行けたんだし、一緒に卒業、したいし」

本当は、もっと高いランクの大学にだって行けた。だけど、恭介と一緒がよかったから、家から近い大学に変えた。本当は違う学部でもよかったけれど、同じ学部がよかったから、同じ学部を選んだ。

「…恭介と、一緒にいたいから」

思わず、そう声に出ていた。ふと我に返り、なんて恥ずかしいことを言ってしまったんだろう、と後悔した。耳まで赤くなるのを感じながら、顔を上げて恭介のほうを見ると、そこには僕と同じように顔を赤くした恭介の姿があった。

「お前…それは、反則だろ」

「えっ…、ちょっ…!」

腕を引っ張られ、その場に押し倒される。驚いて目を閉じると、柔らかい唇が降ってきた。

「俺が、どんだけ我慢してきたと思ってんだよ…」

その切なげな表情に、ドキッとした。大学生になるまで大事にとっておいたファーストキスを、まさか恭介に奪われるなんて、思ってもみなかった。
だけど、不思議と嫌悪感はない。むしろ、相手が恭介でよかったとさえ思った。

こういう行為には、慣れていない。けれど、抱きしめたい、抱きしめられたいという思いが加速して、その広い背中に腕を回す。

「…我慢しなくて、いいのに」

耳元でそう言うと、さっきよりも深く口づけられた。生温かい舌同士がねっとりと絡んで、時折小さな水音が聞こえる。歯列をなぞるように舌先を動かされ、口の端からは互いの唾液がこぼれた。

息継ぎの合間に、恭介と目が合う。その瞳は少しだけうるんでいて、熱に浮かされているのは僕だけじゃないんだと、少しだけ安堵した。

「どうなっても、知らねーから…」

吐息まじりの声でそう囁かれて、うん、と小さく返事をした。自分の着ていたシャツの隙間から手が這わされるのを感じて、僕は覚悟を決めて、きゅっと唇を噛んだ。

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