寂しい雨 (Page 2)

「あんまり強く締めるなよ」

 冷たくて硬いモノが、一番疼く(うずく)ところに触れた。
 たぶん、いや、絶対、こんなところに入れてはいけないモノな気がする。
 それでも先が丸くて薄いガラス筒は、その冷たさを肉壁に与え始めていた。

 ゆっくりと内壁を広げられていく。深くなるごとに自分の体温がその無機物に伝わり、生ぬるい快感に変わる。
 まっすぐ入ってくるソレが、体の中に串を通しているようだった。痺れるように熱い感覚を逃すために丸まった背を、否応なしに矯正した。

「あああ……、りと、りと、やめて……やだよ、こわい……理斗、なんで……」
「抜いてほしいのか?」
「うん、うん、」

 本当は奥を突いてほしい。強く、深く、貫いてほしい。じくじくと火照るナカを壊すくらいに。
 でも、僕はその無機物の快感を否定をした。

「かわいい」

 理斗のワイシャツの脇を掴んでいた手が、温かい指に包まれた。
 整えられた四角い爪が、第1関節を、第2関節を撫で、5本の指をまるでパズルのピースのように合わせた。

 同じシャンプーを使っているのに、理斗の髪は甘い香りがした。首もとに、ピンセットでつままれたような小さな痛みと、泡が弾けるような音。理斗の濡れたような黒髪が離れていった。それと同時に体内から無機質な筒が引っ張られて抜けていった。

「そうだよな。こんな試験管なんかより、俺のもののほうがいいよな。ごめんな」

 そうじゃない。……そうじゃない、のか?
 彼は俺に選択を与えてくれた。
 本当に嫌なら、もっと前に逃げられた。いくら体が熱かろうが、力が入らなかろうが、もっと拒否することはできた。

 でも、俺はそれをしなかった。
 俺も、同じ気持ちだったのか。

「……うん。理斗のが、ほしい……」

 熱い身体がしびれた。頭の中が、まるで霧が覆ったようだ。
 湯気が充満したように、ぼーっとした。
 窓ガラスに打ち付ける雨が強まった。
 意外と心地いいかもしれないと、柄にもなく僕は思った。

Fin.

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