バラ色 after work
葵は頼もしい外見なのにヘタレな工業大学三回生だ。メーカーでインターン活動中だが、そこには入学からずっと気になっている律もいる。同僚として親しくなってきたときに、女性社員から葵がアプローチをされ始め、二人の関係が変わっていく。
「自分ではわからないんだけど、スタイルをよく褒められるから~、キープしなきゃって思って~ホットヨガに通い始めたのよね。でも、汗かきすぎて胸小さくなっちゃうかしら~」
森さんがブリブリっとナイスボディを揺らして聞いてくる。
へーへー、さいですか、俺はおっぱいなんて興味がなくて、程よい筋肉と脂肪でできた大胸筋にしか興味ないんですけどね。などと思いながら聞こえないふりで図面を複合コピー機でスキャンした。
こういった会話には、どう返すのが失礼にならないのか分からない。
「律くん、どう思う~」
俺が聞こえないふりでやり過ごしていると、となりで作業していた律に名指しで聞きやがった。
「森さんの胸が小さくなったら、泣く人がいっぱいですよ。僕も寂しくなります」
図面のステープラー外しをしていた律が、作業をとめ、行儀よく森さんに向き直って答える。可愛い顔が少し悲しそうだ。
森さんはふがっと小さく鼻を鳴らした。せっかく美人なのになぁ。
しかし律、お前、あしらうのうまいなぁ。
「やだ、律くんたら~。でも、そうかな~。おっぱいは癒しだよね~減らせないよね」
はしゃぐ森さんが、律じゃなく俺をバシバシ平手で叩く。なんかな、これってセクハラなんじゃないかな。
「葵くんって、がっしりしていていい筋肉ついているね~。触るの気持ちいい~」
次には二の腕を撫で出した。うーむ、やっぱりセクハラだろコレ。
でも、人から頼りになりそうなんて言われる外見ながらヘタレな俺は、撫でられたまま固まってしまう。
俺と律は工業大学の三回生で、現在大手メーカーの1か月のサマーインターンに参加中だ。
設計実習や開発ミーティングへの参加などで忙しいが、たまに暇な時間ができると雑用も頼まれる。
雑用は嫌じゃないけど、社員でインターンまとめ役の森さんが何かと俺にまとわりつくのが困る。
可愛くて愛想のいい律じゃなくて、なんで俺を気に入ってるんだ。
「ねぇ、葵くん、今日の仕事終わったら飲みに行こう。お姉さんが奢ってあげるよ」
イヤっす!と反射的に答えそうになる。あぶない。
「いや、今日は予定があって、すんません」
「え~、いーっつも予定入ってるのね、いつならいいのよ」
イヤっすよりはマシな返事だと思ったが、森さんはしつこい。
これは本格的に狙われているのか?困って、つい律を見ると
「葵の彼女って、すごくやきもち焼きで大変なんですよ。森さんみたいに綺麗な人と飲んだってバレたら殺されます」
「えー、葵くん彼女いたの?私、狙っていないのに誤解されちゃう?」
「美人ってだけでアウトですね」
「やだ、こわーい。残念だけど、飲むのやめとくね」
彼女なんて、一度もいたことないけど丸くおさまったのでヨシとしよう。
律よ、今日もありがとう。
来客対応で森さんが離れた隙に、律に「サンキュ」と言うと「部屋飲みおごって」と小声で返された。
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