心には、いつも君がいた
高校の同級生・江田(こうだ)と会社の新人研修で再会した青山。高校の卒業式の日に江田から突然キスをされたことがきっかけで、青山は江田への恋心を閉じ込めることになる。けれど、親しい態度で接してくる江田に、青山はまだ江田が好きだということを思い知らされる。3回目の新人研修の帰り道で江田から思わぬことを言われて…。
新人研修で江田(こうだ)の姿を見つけたとき、心の奥底にしまっていた気持ちがコトコトと動いた。
高校を卒業してから1度も会っていないのに…、こんなに都合よく再会できるものなのか?
「青山! 久しぶり!」
何のためらいもない様子で声をかけられ、俺は小動物のように目をきょろきょろさせてしまった。
「もしかして、覚えてない? 高校で3年間同じクラス、同じ部活だった江田だよ」
「あ…、ああ。うん…覚えているよ」
「よかった! 反応が薄いから忘れられたかと思った」
明るい笑顔を向けられて、俺は顔が熱くなったのを自覚していた。
高校のときからイケメンだったけど、さらにカッコよくなっている気がする。それでも穏やかな印象を受けるのは、きりっとした眉と少しだけ下がった目じりのせいなんだと思う。
江田と初めて会ったときから好きだったところだ。
「あー…。びっくりしすぎて固まった」
なんとか答えられたけど、笑顔を作ることはできない。
だって、会いたくなかったから。
「確かに驚いたけど、俺は青山に会えて嬉しい。どうしているか気になっていたからさ」
にっこりと笑った江田の目が、『一』の字を描く。高校のときから全然変わらない笑顔。
今でもどきどきしてしまう、笑顔。
それでも俺は、会いたくなかったんだ。
*****
「キスしていい?」
高校の卒業式の日に、江田からそう言われてキスされた。
俺は目の前が真っ白になって、なんで、と繰り返すことしかできなかった。
「なんでって…。青山の目がそう言ってる」
「目…、俺の目?」
「そう。キスしてほしい、俺を好きだって…」
江田にそう言われて、俺は江田の肩を殴った。グーの形で。
「青山?」
「お前、サイテーだなっ!」
俺は青山の顔も見ずに教室を走り出た。
…なんだよ、それ。
俺は、してほしそうな目で青山を見ていたのか。
江田を好きだという俺の気持ちはバレていたのか?
いつから?
それに…、江田は恋愛感情がなくてもキスできるのか…。
たくさんの疑問で、頭も心もぐちゃぐちゃだった。
江田と一緒に過ごした3年間は、大人になって、おじいちゃんになっても特別な時間になると思っていたのに。
この気持ちをどうしたらいいのかわからなくて、大学は勉強とアルバイトで時間を埋めた。
振り返る時間を作らないように、と。
江田とも一切連絡をとらなかった。
それなのに。
再会してしまった…。
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