心には、いつも君がいた (Page 2)

江田の勤務先は隣県で、私用で会うことはなかったけれど連絡は来るし、新人研修は2か月に1度のペースで行われている。
行きは電車、帰りは江田の車にお世話になっていた。

江田は新人研修のたびに、勤務している県の銘菓を俺に持ってきた。
この前はカスタードクリームをふわふわの生地で包んだお菓子と、有名ないちごを練りこんだバームクーヘン。
そして今回、3回目の新人研修では人気俳優御用達のチーズケーキをホールで持ってきたのだ。

「青山は甘いものが好きだよな。高校のときの昼めし、菓子パンが多かった。フルーツジャムが入った菓子パンとか、あんことホイップクリームの菓子パンとかさ」
「よく覚えてる…」
「覚えてるよ。あんなに甘い菓子パンを食べてて全然太らないから感心してた。俺だったらすぐに太る」

目を一文字にして笑う青山に、胸の音が速くなるのを感じる。
ほどよく筋肉がついた、均整のとれた体だということは服の上からでもうかがい知れた。

「太りやすい体質だから気をつけているんだ。今はジムに通ってる。仕事場の隣がフィットネスクラブなんだよ」

そんなささいな情報にも喜ぶ自分がいる…。
会いたくなかった、でも、忘れられなかった。
1度のキスで嫌いになれるわけがない。

江田の顔を見てしまえば、心の奥底に閉じ込めていた気持ちが騒ぐのだ。

*****

家に着くまでの時間、江田はよくしゃべった。大学生活のことや今の会社に入った経緯、好きな音楽のこと。

俺はコンビニで買ったペットボトルをちびちびと飲みながら江田の話を聞いていた。
張りのある低い声は心地よくて、俺は少しだけうとうとしかけていたのかもしれない。

「青山の家、この辺りでいいんだよな?」

呼びかけられて、はっとした。車の窓から見える景色が見慣れたものに変わっていた。

「あ…、ごめん。送ってもらってるのに…、俺、寝てたかも」

もう一度謝ると、江田の笑う気配が伝わってきた。

「大丈夫だよ。…で、この辺?」
「あ、ここで降りるよ」
「家まで送る。場所を言って?」
「う…ん、あの信号を右に曲がってすぐの建物。スーパーの隣」

スーパーの明かりに、ああ、と江田が頷く。マンションの駐車場に滑りこむように車が止まった。

「今日はありがとう。送ってくれて助かった」

後ろの座席に置いたチーズケーキと今日の研修の資料を取ろうとした、そのとき…。

「あのとき何でキスしたのか、もう一度訊(き)いて」

江田に手を握られて、心臓が大きく跳ねた。

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