あなたの猫になりたい
恒例となった高崎課長との反省会、という名の飲み会。密かに思いを寄せる課長との、二人きりの時間をいつも心待ちにしていた尚(なお)だったが、かわいがっている猫が冷たいという課長の発言に、魔が差してしまい…。
魔が差した、とでもいうべきか。
恒例となった高崎課長との反省会。大げさなものではなく、毎度課長の自宅に呼ばれて、課長セレクトのつまみをビールでいただきながら、悩みや愚痴をぽつぽつ話す――飲み会だ。次のプロジェクトはどう攻めるのかと真剣に語っていた高崎課長の口が、急に重くなった。その手にあるビールの缶が、小さくきしむ。僕は食べ始めて止まらなくなった限定のおつまみセットを、いったん机に置いた。
「最近、猫が冷たい」
とろんとした口調だった。課長は酒に弱い。それまで悩みや相談をするのは僕のほうだったのに、一度酔いが回りだしたら立ち位置が完全に逆転する。
「実家のご両親が飼い始めた、黒猫ちゃんでしたっけ」
いつだったか、孫の代わりに猫を飼いだした、と聞いたことを思い出した。
「弟のおやつが気に入ったみたいで、俺には見向きもしない。前は俺にちょこちょこついて回っていたのに、最近俺への愛想はそこそこに、あちこちでかわいがられている」
猫って、動物の猫だよな。脳内がただれているせいで、どうしても邪推してしまう。――かわいいネコ(人間)を、弟と取り合う課長。ネコちゃんは弟のアレのほうがお気に入り…、みたいな。妙な思考にとらわれるには十分なほど、僕もしっかり酔っていたと後で気づいた。
「――だったら、僕が課長の猫になりましょうか」
魔が差した、というべきだろう。
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