初体験は玩具でした
人生を半分過ごした桜井は、交際しても長続きせず抱くこともできず童貞だった。そんなある日、出張先のホテルで一枚の名刺を見つける。その名刺はデルヘリの名刺だった。しかも男専用の。桜井の脳裏にある興味が浮かび、悩みながらサイトを眺める。
出張続きの毎日もあと数日で終わると思うと寂しい気がした。
年齢を配慮され内勤に変更されるというのに、まだ若い人間に負けてないと思うのだ。
ビジネスホテルのベッドに横になった桜井は、ぼんやりと天井を見上げながら気をそらしていた。
所々シミがある。万札一枚でもお釣りが出るホテル。
白髪交じりの頭を掻く。目の前に半分に折られた名刺をかざした。
客がチェックアウトすると掃除されるはずだが、ベッドの下に落ちていたものだ。
シンプルな水色の名刺。明記されているのは、いわゆるデリヘルだった。しかも男の。
ベッドで寝返りを打ちながら、考えているのは溜まっている下半身のことだった。
ずっと独身で不器用で気が利かない性格のせいで、交際しても長続きしなかった。
しかもこの年で誰かを抱いたこともない童貞。
恥ずかしくて誰にも言ったことはない。
出張先で何をしようが会社にバレることはないが、悩んでいるのは年齢のせいだ。
人生の半分もすぎた爺を相手にしてくれるのか?
それだけではない。考えているのはこの要望を叶えてくれるのかということ。
悩み続けてもチャンスを逃してしまうだけだ。
名刺にあるホームページにアクセスした。どういったものか知ってからでも遅くない。
*****
二時間後、ホテルのドアをノックしたのは中性的な顔立ちの青年だった。
若者らしい茶髪に愛くるしい大きな眼。
服装はラフなTシャツにジーパン。今から行うことが想像できない普通の服装。
「はじめまして、テルです」
「どうも…」
にこにこと笑うテルに気圧されてしまう。ここまで明るい笑顔を向けられたことがない。
なにもいわないからドアの前で棒立ちになっている。慌てて椅子をすすめた。
桜井はベッドに腰かける。
「桜井さんは初めての利用ですよね?今までこういったサービス受けられたことはありますか?」
「いや、初めてだよ」
「そうですか。じゃあサイトにも説明があったと思いますが、説明しますね。まず本番はなしです。これは絶対守ってください。お互いのためです」
「はい」
テルは説明慣れてるのだろう、淀みなくつらつらと小さな口から言葉が出てくる。
すらりとした身長に小さな顔が乗っている。
バックから何かを取り出している手も、指が細く手だけ見たら女のようにしなやかだ。
「ご理解いただけましたか?」
「え、ああ」
説明が耳を通り抜けていっていたが頷く。
テーブルにはいつの間にか、桜井にはよくわからないものが並べられていた。
ドレッシングが入っているようなボトルは、透明な中身からしてローションだろうか。
「一緒にお風呂入りますか?」
「あ、いやその」
「大丈夫ですよ。一応、身体洗って来ましたのでいつでも始められます」
「そうじゃなくて…」
はっきりと返事をしない桜井。
時間制限がある為、テキパキと話を進めるテルが首をかしげた。
「いいづらいんだけど」
「年齢は気にすることじゃないですよ?」
「無理なら…料金だけ払うから帰っていいから…」
「そんなに無理なことなんですか?」
本番以外で無理なことはないのにと不思議そうだ。
ベテランなのだろう、セックスをしたことがない桜井と違って。
「お、お、犯してほしいんだ…」
口ごもりながら桜井は言った。小声で聞こえなかったかもしれない。
しかしテルは驚くリアクションもせず、笑顔のまま「もちろん!お任せください!」と頷いた。
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