年下部下に弱みを握られ犯されて
本社から人事異動してきた山谷の教育担当になった原。率先して仕事を引き受け人当たりもよく、すぐ馴染んでいた。山谷の教育担当から外れることになった日、世話になったからと飲みに誘われる。取り留めのない話をしていたら急に山谷は「原さんってゲイだったんですよね?結婚出来たんですね」と言い出した。
「今日からご指導のほどよろしくお願いします!」
「ああ」
人事異動してきた山谷は、入社したての新人と言われても納得してしまいそうなほど若々しかった。
ぺこりと頭を下げる動作も機敏で、デスクワーク漬けの毎日ですっかり鈍ってしまった原にとって眩しいものであった。
「大学でラグビーやってたって聞きました。実は俺ラグビー詳しいんですよ」
「へえそうか」
「あ、すみません初対面なのに変な話題ですよね」
すみませんともう一度謝る山谷に、気にするなと原は答える。
「早速だがうちでのやり方を説明するぞ。といっても本社とそう変わらないと思うが」
「はい!」
元気に返事をした山谷は、本社の人間だった。
なんでも社内でトラブルを起こし、原が務める支部に飛ばされてきたと噂だったが、解雇ではなく異動処分ということは、そこまで酷いことをしたわけでもないのだろう。
教育担当を任せられた原は「本社と同じですね」と説明に相槌を打つ山谷に、早いところ担当を外されるだろうと予感した。
*****
予感通り一週間もせず担当を外されることになった原は、仕事が終わり山谷にそう伝えると「お世話になったので今から飲みに行きませんか?もちろん俺のおごりで」と誘われた。
原は急な誘いにスマホを取り出した。
「都合が悪いなら別の日にでも」
「いや、大丈夫だ。今から行こう」
「でもいいんですか?奥さん待ってるんでしょう?」
左手に視線を向ける山谷。指輪はない。
プライベートの話はしたことがないのに、気づいていたのかと原は驚く。
「嫁というか、いつも子供を迎えに行ってるんだ。迎えを頼んだ」
「ええ!そんなぁ。俺お子さんに恨まれますよ。あ、車運転するなら飲めませんよね…」
「帰りはタクシー使う、嫁は理解あるからな。むしろ息抜きしてこいって」
ほら、とやり取りをしていた画面を見せる原に、山谷は嬉しそうに「なら行きましょう!いいとこ知ってるんで!」と原の腕を掴んだ。
*****
山谷に連れられてきた居酒屋はにぎわっていた。
その居酒屋はカウンター席はなく、仕切りで分けられた座敷の個室だけだった。
次々と注文する山谷に、原はそんなに食えないと呆れた声を上げた。
「大丈夫です。ここ一皿の量が少ないんですよ」
「そうなのか」
「原さんはあんまり飲みに行かない感じですか」
「仕事の付き合い以外はめったに飲まないな」
「じゃあ今日は奮発しますね~」
「気を遣うなよ」
「感謝の気持ちです」
運ばれてくる料理を口休めに、二人は取り留めのない話をした。
料理はどれも濃い味付けで酒が進んだ。
酔いが回り赤い顔をした山谷が、そういえば、なんて話の続きのように「原さんってゲイだったんですよね?結婚出来たんですね」と言い出した。
喉がおかしな音を立てる。
口の中に入っていたのが、味が染みた濃い煮込み魚だったはずなのに、味がわからなくなった。
「…なんの話だ」
「あれ違いました?いや間違ってないはずですよ」
やけに断言した声に、原は山谷の顔をまじまじと見つめる。
イケメンに分類される容姿だ。滅多に忘れそうもない、人事異動する前に会ったことがあれば憶えているはずだ。
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