もどかしくてじれったい

・作

伊織(いおり)は自身の火照った身体に指を滑らせた。恋人である昌也(まさや)は未だ夢の中。昨夜愛されたことを思い出しながら自らの指で慰めるけれど、彼の細長い指で突かれた最奥が自らの指では届かなくて――。

辺りが薄ぼんやりと明るくなってきた頃、伊織はベッドからのそりと起き上がる。隣で眠る昌也を起こさないようにそっとベッドから降り、気怠い身体を引きずるように浴室へ向かった。シャワーを浴びるために服を脱ぎながら洗面台の鏡を覗き込み、少しギョッとした。

自身の身体にはなかなかな量の赤い跡が散りばめられ、昨夜それはそれはたっぷりと愛された事を思い出して頬が熱くなった。それと同時に、はじめは自分が主導権を握っていたのに後の方は好き勝手されてしまったことも思い出してしまい、なんだかちょっと悔しくもなった。

昌也との行為は毎度訳が分からなくなるくらい気持ちがよくて、ただただしがみ付いて声を上げることしかできなくなってしまう。

「…」

首元のそれを指でついっとなぞる。そして彼に吸い付かれた時のことを、ぼんやりと思い出した。

『伊織…気持ちいい…?』

昔はくすぐったいだけだった行為が、声をあげてしまうぐらいに気持ち良く感じてしまうようになったのは、一体いつの頃からだったろう。ぢゅっ、ときつく吸い上げられる感覚を思い出して身体が震えた。

『好きだよ…』

囁かれながら触れられた場所が、再び熱を持つ。さんざん好きにされた身体は怠くて仕方がないのに、触れられたことを思い出しながら甘く痺れた。

…朝っぱらからなに考えてるんだ僕は。そう熱を持て余して途方にくれたがずっとそうしている訳にもいかず、かといって今からベッドに戻って未だ夢の中の昌也を叩き起こすのも忍びない。となれば答えはひとつ、伊織は浴室に足を踏み入れ、浴槽の縁に腰をかけた。

「ん…」

彼の言葉と仕草と表情と、そんなものを思い出しながら火照った身体に指を滑らす。思い返してみれば彼と住み始めてからは自らの手で慰めるのは初めてかもしれない。その行為に思いのほか息が上がった。

『ここ、好きだよね』

昨晩彼にされたのと同じように胸の飾りに触れれば、面白いぐらいに身体が跳ねた。

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