炭酸ジュースとお酒
小5からの親友カズシは女の趣味が悪い。なぜならこれまでに紹介された彼女はどれもトーマの嫌いなタイプだから。それは大学生になっても変わらずだった。そんなあるとき、カズシに呼ばれて彼のウチに遊びに来たトーマはそこで、カズシから「お前俺のこと好きなんじゃない?」とまさかの質問をされて…
「彼女ができた」と初めてカズシから紹介されたのは中2のときだった。
あ、嫌いや…
反射的にそう思った。
カズシの隣で控えめそうにチョコンと立っている1つ下だという彼女のことを、あざとくて計算高い女だと、瞬時にそう俺の頭は判断した。
「俺はあんま好きちゃうかな」
どう思った?とカズシに聞かれたときに、遠慮なく俺はそう口にしていた。
結局俺の見立てが正しかったのか、それから1ヶ月も経たないうちにカズシはその彼女と別れていた。
それからもカズシは彼女ができるたびに俺に紹介してくれるけど、どの彼女も俺が嫌いなタイプだった。別に彼女達に目立った共通点があるわけでもない。ただ、直感的に〝嫌いだ〟と思ってしまうわけで、どこがどうというのもない。
ただ、嫌いと思う。それだけ。
どうしてこう毎度毎度、俺が嫌いだと思うタイプと付き合うのかは謎だが、いつも結局カズシはすぐに相手と別れている。
「トーマに言われたらそんな気がして」
と、あっけらかんと笑うカズシを何度見たかわからない。
よく次から次と相手が見つかるものだと感心すら覚えるが、まぁ同性の俺からみてもカズシは飛び抜けてカッコいいし寄ってくるオンナは数多(あまた)なのだろう。
*****
ところどころにサビが目立つ鉄製の外階段を、ガンガンと音を立てながら昇る。築45年のボロアパート。
実家から近い大学に進学した俺とは違い隣県の大学に進んだカズシとは、連絡は取りあうもののほとんど会わなくなっていた。
最後に会ったのが半年前、大学2年のハロウィンの時期。そのときも新しい彼女を紹介されて、案の定俺の嫌いなタイプだった。
今日もまた彼女を紹介されるのか、また俺の嫌いなタイプだろうか、などと想像しながら階段を昇りきり、1番角の部屋の呼び鈴を鳴らす。
「空いてるー!」
建物の防音は大丈夫なのかと心配になるぐらいにクリアな声が扉の向こうから聞こえてきた。
レトロな銀色の丸いドアノブを回すと、すんなりと扉は開いた。
「トーマ、久しぶりやな」
8畳のワンルーム、そこにいたのはケラケラと笑っているカズシだけだった。
「あれ?」
思わずキョロキョロと隠れる場所もなさそうな室内を見まわす。
「どうしたん?」
「いや。また新しい彼女紹介するんかと思って…」
素直にそう言ったら、ウハハッとカズシは笑った。
「ちゃうわ!あーでも、そうか、違くもない…か?」
1人でウンウンと頷きだしたカズシに手土産の缶チューハイとツマミの袋を手渡して、どういう意味だ?と首をかしげてみせた。
カズシはチューハイのプルタブを開けて、1口、2口飲んでから、フゥと息をつき、俺をジッと見て言った。
「トーマってさ、オレのこと、好きなんちゃう?」
「へ?」
かしこまってなにを言い出すのかと思えば、好きか?だと。
袋から自分用のチューハイを取り出して、俺もそれを1口飲んだ。ほとんどジュースみたいな甘い桃のチューハイ。
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