濡れ堕ちた先の結末は
片思いしていた大学の友人に失恋をしたマサキは、新たな出会いを求めてゲイ専用のマッチングアプリを利用した。そこで出会ったユキトの遊び慣れてそうな雰囲気にマサキは戸惑いつつも一緒にホテルへと行ってしまうのだった。
初めまして、と笑顔で言ってきた男は物腰がやわらかそうで、マサキは少しホッとした。
「よ、よろしくおねがいします。ユキト…さん」
ペコリとマサキが頭を下げると、ユキトと呼ばれた男は肩を震わせて豪快に笑った。
「めっちゃ堅苦しいじゃん!そっか、マサキくんマッチングアプリ使うの初めてだったんだっけ?」
「は、はい…」
そうマサキが答えると、ユキトは「そんな緊張しなくても大丈夫だよ」と言いながら、グイと腰を抱いてきた。
どう反応するべきかと戸惑うマサキをよそに、ユキトはニッコリと笑う。
「じゃ、行こっか」
どこに…と聞く余裕もなく、マサキはユキトに引きずられるようにして歩くのだった。
*****
外の喧騒(けんそう)を遮断した静かな空間、窓もなく四方を壁に囲まれたその場所には無駄に大きいベッド。
申し訳程度に設置されている小さなソファは大人が2人座るとピッタリと密着してしまうので、マサキは仕方なくその大きいベッドの隅に腰掛けていた。
「なんか頼む?」
ユキトは小さなソファにドカッと腰掛けて、テーブルの上にあったフードメニューをパラパラとめくっていた。
慣れた様子のユキトをチラチラと見ながら、マサキは戸惑うように口を開いた。
「ユキトさんは毎回すぐこんな風にホテルに入るんですか」
パラ…と、メニューをめくっていたユキトの手が止まる。
「あー…嫌だった?そういうつもりじゃなかった?」
メニューをテーブルに投げ置いたユキトは椅子から立ち上がるとベッドの方へと移動した。
ベッドの端に腰掛けているマサキのすぐ隣にボスンッと座った。マサキが両膝の上で軽く握っていた拳の上に、ユキトの手が乗る。
「嫌…というか、僕、こういうの初めてだから、よくわかりません。ただ…」
マサキの口振りは拒否しているものではなかった。
「ただ?」
優しくうながすユキトの声に、マサキはポソポソと言葉をこぼす。
「少し前に、失恋したんです。相手は同じ大学の友人で。僕の一目惚れだったんですけど、運よく仲よくなれてどんどん好きになってしまって。気持ちがおさえきれなくて告白したんです。そしたら当然フラれて。けど、それでも僕と『これからも変わらず友達でいよう』なんて言ってくれるいい奴だったんです。普通に女子にもモテるし、男と付き合うわけないよなーって思ってたんです。けど…」
マサキはそこで一旦言葉を切ると、バッグの中からミネラルウォーターの入ったペットボトルを取り出してコクコクと飲んだ。ふぅ…と重いため息を落として、ようやくとマサキは口を開く。
「このあいだ偶然、街なかで見ちゃったんです。男と一緒にいたとこ。僕はゲイだから、すぐに2人が友達以上の関係だってわかって。声もかけなかったし、本人に直接なにか聞いたりもしてませんけど、ただ…僕はノンケに恋をしてフラれたと思っていたのにそうじゃなくて。僕だからフラれたのだと思うとちょっと…ヤケになった、というか。それで…」
「ゲイ専用のマッチングアプリに登録して相手を探してたってこと?」
代弁するようなユキトの声に、マサキはほんのりと顔を赤くして頷いた。
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